くらし・地域に向き合う 佐々木政行 日本労協連 統合本部事業推進本部【リレー談話室】2021年1月7日
「労協法」成立
日本の協同組合に新しいタイプの協同組合が誕生した。出資した組合員自らが働き、組合員自身が経営(全組合員経営)する――という「労働者協同組合」(ワーカーズコープ)である。
戦後の失業対策事業(失対事業)の仕事おこしの取り組みの中から生まれた日本労働者協同組合連合会(日本労協連、本部=東京・池袋)は、出資と労働と経営を一体的に行う"協同労働"という働き方を反映した仕組みづくりをめざす中で、既存の制度では収まらず、自前の根拠法が必要だとして法制化運動に乗り出して20年余。ついに、(2020年)11月24日に衆院本会議で、12月4日参院本会議で、いずれも党派をこえた全会一致で「労働者協同組合法」が可決、成立した。2年以内の施行が決まったのである。
わが国の協同組合史上、新しいページが開かれた。日本協同組合連携機構(JCA)はじめ、さまざまな団体や市民の皆さまの長年にわたる支援の賜物として感謝申し上げたい。
小農と森林守る活動
ワーカーズコープが現在展開している事業は、病院の清掃分野から生協の物流センターの請け負い、高齢者介護、学童クラブや保育園などの子育て支援、障がい者や困窮者のさまざまな自立支援など多岐にわたっている。くらしと地域を焦点に、地域の困りごとを住民とともに協同労働というやり方で仕事を起こし、課題解決に近づける。同時に、絶えず自分たちの仕事は「誰のための何をめざすものなのか」「本当のよい仕事になっているのか」を問い続けながら、取り組む事業分野を広げてきた。
ワーカーズコープの個別事業や協同労働の中身とか、全組合員経営の実態と課題とか、それぞれ興味深いものがある。だが、その紹介は別の機会に譲り、今回はワーカーズコープが既存事業とは別に「小農・森林」の活動を全国で取り組み出したことを紹介したい。
日本労協連は2020年の11月1日、「小農・森林ワーカーズ」全国ネットワーク発足式を開いた。コロナ禍対策のため、100人以下のリアル集会と全国のワーカーズコープ事業所とオンラインで結んで開催し、今後、地域の人たちと一緒に社会連帯的な活動として全国で取り組んでいくことを宣言したのである。
「小農・森林」活動とは、小規模で自給的な農事業と森林の空間を含めた多面的な活用を意味している。かみ砕いた言い方をすると、地域の身近にある遊休農地や放置森林などを活用して「みんなで作って、みんなで食べる」自給的な農事業に取り組み、荒廃した竹林や里山の再生につながる間伐材等の活用や、森林浴とか「森の幼稚園」のような自然と生命のふれあう空間をはじめとした多彩な活用を図ろうという地域運動を構想している。
ともに生きる地域へ
ワーカーズコープ事業所で農事業に取り組むところは、徐々に増えつつある。それを農家も含めて地域の人たちや子どもたちと一緒になって、小農を通じた安全・安心な食の自給と農と森林の多面的な価値を体験・享受していこうというものだ。
業(なりわい)としての農ではなく、みんなで農を楽しみながら収穫物を分かち合い、時には楽しく一緒に食べ合い、より心地よいコミュニティづくりにつなげていくのである。
先行き不透明なコロナ禍の時代にあって、ささやかでも食料自給につながる取り組みは、私たちのくらしに大きな安心をもたらす。それを地域の取り組みに広げることで、地域自給の輪がさらに広がることになる。多様な人たちと、ともに生きる地域の再生に向けた運動ともいえる。ワーカーズコープは協同労働を通じた地域づくりをめざしているのである。
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