中食業者から「安いのはコメだけだね」と言われた納入業者【熊野孝文・米マーケット情報】2021年11月9日
大手事業所給食に直接コメを納入している大規模稲作生産者が令和3(2021)年産米の納入交渉の際、相手先から「安いのはコメだけだよ」と言われ、大幅な値下げをせずに済んだ。コロナ禍で世界的に1次産品が高騰、それに加え円安が進み、海外から輸入される物資が値上がりしている。コメと競合する小麦等も大幅に値上げされ、パン麺等の加工品も相次いで値上げされる。
中食業者や外食業者などいわゆる業務用米の納入交渉は、相手先企業の規模や仕入れ戦略の考え方によって交渉方法は様々である。国内で最も多くコメを使用する中食業者の場合、コメの価格設定に関して以下のような付帯条件がある。
(1)基準地(東京もしくは大阪)、1等、包装別、60㎏価格であること
(2)加算金等がある場合は金額を提示すること
(3)北海道から九州まで全国配送が可能であること
(4)(3)の場合、基準地から運賃設定は「全農運賃加減」に準ずること
(5)価格提示については6月末、10月末引き取り期限で、それぞれの販売価格を提示すること。
その他の形での提案については別途詳細を記入すること。
この他、玄米の調達先や玄米の品位に関して付帯条件が課せられているが、長くなるので割愛する。1点だけ玄米品位に関して「精米製品の品位に悪影響を及ぼすと判断された場合は返品、または交換等に応じること。特に以下の品位項目は1等基準であっても精米センターでの調製が困難なため注意が必要。水分、胴割、未熟粒(うち乳白、腹白)、異物・異種穀粒、異臭、表示不備等。(品位の改善が見られない場合は契約解除もあり得ます)」。コメも食品であるためこのくらい品位に厳しい付帯条件を課すのは当たり前だというのが買い手の主張なのだろうが、トラックの荷台に靴跡が付いていただけで返品されたケースもあるだけに納入業者は行くも地獄(納入業者にエントリーする)、引くも地獄(エントリーしない)だと表現する。実際、逆リバースオークションで決定した価格をみると納入業者はどこで利益を得ているのか不思議に思えるぐらい安い。コメは納入業者の規模の大小にかかわらず同じ産地銘柄を納入しているのだから差別化しようがないので納入できるか否かは価格以外にないのでその競争は熾烈になる。
だからと言ってこのコメの大口ユーザーが価格と品位だけにこだわっているのかと言うとそうでもない。全国に2万1000店舗も展開しているため、地域によって売れ筋の商品に違いが見られ、特に地方では地場産品を使った商品のウケが良いためコメも地場で取れるものを使用することにした。それまで九州の店舗で販売されるおにぎりや弁当のコメは8割方東北県産のコメを使用していた。そこで九州産のコメを使用する計画を立てたのだが、なんと九州には1万㌧を集荷できる業者がいなかったのである。
地場のコメを使用したかったのに自社のロットに対応できる供給ルートを確保できなかったといういうオチが付いたのだが、このことは笑える話ではない。
この大口ユーザーにはコメ、野菜についてアドバイスするという役割を担っている情報顧問がいる。この顧問は講演会で「日本の国力が衰えて円安が進み、海外から食料を調達するのが難しくなるのではないか」として自社で取り組んでいる農業ソリューションを農業者全員と共有したいと提案した。
趣旨は、農業を巡る今後の予測として、高齢化による廃業の加速、農業会社の大規模化の加速、需要減少による販路を失う農家が増えるなどパラダイムシフトが近づいているとし、中でも最も危惧されるのが日本国の国力の衰えにより円安が進み、海外から食料を十分に調達できない恐れがあり、これに備えるには何よりも日本農業を構造改革して競争力を持つ産業に強化する必要があるとし、農業を中心の6次産業化から「周辺事業領域への拡大」で、1次産業、2次産業、3次産業のそれぞれの分野で自治体やIT企業、福祉団体と協力ししながら農業を核として地域全体の付加価値を上げるという発想のもとに行われるというプラン。実際に今年完成したLEDを使った国内最大の野菜自動栽培施設は露地野菜に比べ80倍の生産効率があるとした他、福島県浜通りで復興事業の一環として取り組んでいるコメ作りはスマート農業を活用して毎年作付面積が拡大、来年は150㌶の作付け計画を立て、カントリーエレベーターまで建設した。
円安はコロナ禍で加速しており、海外から食料の調達が難しくなるのが近づいており5年先10年先の話ではなくなっている。冒頭の中食業者だけでなく、日本国民全員から「安いのはコメだけだね」と感謝される日が来るようにしたいものである。
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