本格的な機械化、車社会化の進展【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第171回2021年11月11日
日本の水田のトラクター化は土壌、区画、代かき等々からして無理である、60年以前はそう言われたものだった。実際にそうだった。初期の農業構造改善事業で導入した外国製の大型トラクターは使い物にならなかった。
そこで導入されるようになったのが、さきに述べた中型トラクター、日本の水田に適合した日本製のトラクターだった。60年代後半から普及し始めた。

刈り取り・脱穀を一気に行う外国製の大型コンバイン、これは収穫時の水分が高い稲の刈取りに対応することができず、しかも農家の要求する増収と矛盾するので結局は誰も利用しなくなった。もちろん新たに導入しようなどという地域もなかった。
だからといって昔の手刈り・自然乾燥に戻るわけにはいかない。戻ったらコンバインに付随してつくったライスセンター(生籾の乾燥調製・保管作業とを行う共同利用施設)の利用が皆無となって赤字になってしまう。
そこに導入されたのが生脱穀機だった。これまでの脱穀機は乾燥させた稲から脱穀するものだったが、これを刈ったばかりの水分が高い稲から損傷を与えることなしにつまり生もみを脱穀できるようにしたのである(これは後の自脱コンバインにつながることになる)。さらに、これまでの脱穀機と違って稲をわらごと投入して生もみを脱穀するスレッシャーも開発された。
この2種類の機械はこれまでの稲刈り・乾燥方式とまるっきり異なり、わら工品の製造を不可能にするものだったが。もう一方で、これまでの手刈りをそっくりそのまま機械化した刈り取り機も開発された。しかし問題は結束、これは人手、かえって労働は大変になる。それであまり普及しなかった。
これを解決したのがバインダーだった。結束までしてくれるのである。ただし束ねるのは稲わらでなく工業製品のひも、ここに問題があったが、稲わらの利用は可能になるので。これこそ日本の機械化、あるべき稲作の機械化、よく技術者が考えてくれたものと私などは感心したものだった。しかし、そのころはすでに稲わらは不用品化、あえて結束して保存などする必要はなくなっていた。しかものんびり自然乾燥などしていたら、出稼ぎで稼ぐ時間がなくなる。ということであまり普及しないで終わった。
これまでの背中に背負って散布していた防除機は、大型防除機による共同防除に代わり、防除効果は大きく上がり、労働も軽減された。
日本の田んぼに適したこうした中小型(欧米に比較してのことだが)機械が開発、導入された結果、田んぼが機械の轍(わだち)で深く傷つけられることもなくなった。農民の増収要求とも矛盾しなくなった。やがて田植え機まで開発されるようになるのだが、日本の科学技術力のすごさというものをしみじみ感じせさせられたものだった。
話はちょっと変わるが、前に耕うん機+リヤカーが運搬車・乗用車代わりだったという話をしたことがあった。その耕うん機が60年代に入って中型トラクターに変わったが、だからといってトラクター+リヤカーを運搬車・乗用車代わりにするというわけにはいかない。
そこで導入されたのが軽トラックだった。私たちは「軽トラ」と呼んだものだったが。最大積載量は350kg以下、価格や維持費はきわめて安く、上り坂にあった農家の収入(出稼ぎ、通勤日稼ぎも含めてだが)で十分に購入できたのである。
軽トラに山のように稲わらを積んで運ぶ姿と同時に、家族を座席と後ろの荷台に乗せて街に買い物に行ったり、、周辺の観光地に出かけたりする、つまり乗用車として利用する姿もみられるようになった。
これが農村の車社会化の始まりだった。そして、やがてその軽トラに乗用車が加わり、それで周辺都市や誘致企業、工事現場に日稼ぎにいくようになるのである(高度経済成長は地方へも波及しつつあった)。
60年代、高度成長期はこういう年代でもあった。
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