緊急対策事業が国産米粉需要拡大に貢献する可能性【熊野孝文・米マーケット情報】2022年5月10日
政府の物価高騰対策では、農林水産関連で751億円の対策費が計上された。この中に「輸入小麦等食品原材料価格高騰緊急対策事業」(以下対策事業)として約100億円を充てられる。対策のポイントとして「ウクライナ情勢等に関連して価格が高騰している輸入食品原材料を使用している食品製造業者等に対し、国産小麦・米粉等への原材料の切替、価格転嫁 に見合う付加価値の高い商品への転換や生産方法の高度化による原材料コストの抑制等の取組を緊急的に支援します」と記されている。100億円も投入されるのだから外国産小麦の代替需要として国産米粉の需要拡大が期待される。
対策事業の内容は、米粉に関連する部分だけを示すと「原材料を切り替えた新商品等の生産・販売(価格転嫁に見合う付加価値の高い新商品の開発を含む)(例)●輸入小麦から米粉・国産小麦への切替(「もっちり感」のある米粉パンの開発)」と「国内で自給可能である米の消費促進や、円滑な価格転嫁に資する情報発信」となっている。支援対象経費は▽原材料切替のために必要な調査▽新商品等の開発・原材料切替に伴う機械・設備の導入▽製造ラインの変更・増設▽食品表示の変更に伴う包材・資材の更新▽新商品(高付加価値化を含む)PR費▽新商品(主食用)の販売促進期間における原材料費―となっており、国が2分の1を助成する。
実際の手続きはまず国が事務作業の受け皿になる民間団体を公募して、そこが取りまとめ役を担う。民間団体は必ずしも米粉に関連する団体とは限らないため裾野が広がる。事務作業を担う能力があるのか否かを国が判断したのち受付をはじめることになるため、その時期は6月中下旬ごろになる。
最大の関心事は、この対策事業で外国産小麦の代替需要としてどのくらい国産米粉の需要が増えるのかにある。農水省は予算を計上するにあたり、その需要見込みを作ったのだがこれは公表されない。
農水省が今月公表した「米粉をめぐる状況」の改訂版によると令和3年度の米粉用米の生産量と需要量は4万2000tになっている。生産と需要の両面の数字が出ているのには理由があり、米粉用米は新規需要拡大米の対象作物であり、飼料用米と同額の助成金が得られる。ところが平成30年産から令和2年産米まで需要に見合う生産量が確保できず、いわゆる需給ギャップが生じていた。4年産でも需要に見合うだけの生産量を確保するためには今年6月までに生産サイドは需要者を見つけ取り組み計画書を提出しなければならず、今回の対策事業の採択を受けるためには早急に需要者側と取り組み計画を策定する必要がある。
その場合、超えなくてはならないハードルが何点かある。一つは原料米代金。米粉用米は飼料用米と同額の助成金が得られるのでその分原料用米代金は安くなる。農水省の資料によると原料コストはキロ当たり小麦が60円であるのに対して米粉用米は50円になっており、すでに小麦より米粉用米の方が安く、小麦は4月から17%も値上げされたので、原料コストだけをみると米粉用米の方が価格競争力が増したことになる。問題は製粉コストで、小麦の製粉コストがキロ50円程度なのに対して米粉は70円から340円程度となっており、最終製品の売価が高くなる。米粉を小麦粉の代替品と使おうとするなら小麦粉に近い特性を持たせなければならないが、もともとグルテンを含まない米粉に小麦粉の同じような特性を持たせるのは至難の業で、これまで数々の製粉機が開発されたが、小麦のように大量生産出来るような米粉製粉機はない。
また、湿式で製粉するとなるとそれに伴う付帯設備も必要になり、その分時間当たりの製造コストアップを招く。それどころかこれまで市場に投入された米粉製粉機の半分は使われていないという事態まで引き起こしている。ただし、コメを製粉するための新しい製粉機の技術が無駄であったわけではない。超微細粉にする技術が開発され、食品以外の用途に使えるというものまで開発されたので用途の拡大には貢献できる可能性はある。
それよりも制度的に大きな問題なのは、既存の米粉と新規用途の米粉のどこが違うのかという点にある。そもそも日本には米粉を製造する技術は古来からあった。一般には知られていないが、米粉のサンプルは用途によって400種類ぐらいはあり、それらを使用することによって芸術的とも言える和菓子等が文化的にも花開いた。米粉需要を海外も含めて拡大するという狙いがあるのなら、既存の米粉も今回の事業の対象に加えてそれらを助成することによって伝統的な和菓子が世界に広がるような施策にしたらどうだろう。
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