姿を消したもんべ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第218回2022年10月20日
戦中モード(というよりも戦中制服と言うべきなのかもしれないが)だったもんぺは戦後どうなったのかだが、当初はもの不足時代、もんべ姿はそのまま残った。戦後の闇市の写真や映像に出てくる女性の姿を見ればよくわかるだろう。
しかし、1950年代、戦後復興が進み、洋風化が世の流れになるなかで、女性の和服姿は少なくなり、スカート・ワンピース姿が一般化するなかで、都市部でのもんべ姿は見られなくなっていった。
それより少し遅れて農村部でももんぺ姿は減ってきた。生活改良普及時事業等で「前近代的」な農作業着姿からの脱却、活動的な洋風の「近代的」な農作業着姿(洋風がすべて活動的なのかどうか疑問なのだが)への転換を推奨したからである。それでも積雪寒冷地手派の農村部、とりわけ山形・秋田では防寒防雪対策のためもあったろう、戦後かなり長い期間、もんぺの利用は続いた。1970年代、道路工事湯の土建作業に働きに行く農村婦人はやはりもんぺ姿だった。
しかし、この山形・秋田でも機械化・兼業化、衣生活の洋風化の進む中でもんべ姿はやはり消えていった。やがて私たちもそれに慣れていった。そして気が付いたときにはもんぺは見られなくなっていた。この時期は農村から若い女性の姿が見られなくなり、「嫁不足」の声が聞かれるようになってきたころだった。
もんぺを見なくなってもう何年になるだろうか。なつかしい、田畑での母のもんぺ姿、台所に立つ祖母のもんぺ姿、藁沓(わらぐつ)にもんぺの下の部分を入れて雪道をさくさくと歩く近所のおばさんの暖かそうなもんぺ姿、左に防空頭巾・右に救急袋をぶら下げた小学校時代の同級生の女の子の「勇ましい」もんぺ姿、なつかしい、
あの世で祖母や母たちのもんぺ姿を見せてもらうしかないか、もしかしてあの世も洋風化してもう見ることもなくなっていたりして、それが怖い、もう少しこの世にいることにするか。
でも、白い割烹着に「大日本婦人会」のたすきをかけた女性のもんぺ姿だけは二度と見たくない。
戦時中のことである。当然のことながら私たちの地域でも「大日本婦人会」が組織された。その集まりが近所の神社の社務所で開かれ、近所のご婦人たちが全員その姿で集合した。当時神社は国の庇護を受け、位階勲等までもらっている偉い存在だった。当然神主も偉かった。当然神主のご夫人(『標準語』をしゃべっていたから東京「ご出身」のようだった)のご挨拶がある。お白粉をべたべた塗りたくった真っ白な顔に真っ赤な口紅をつけた大きな唇を大きくあけ、太縁の丸い大きな眼鏡をかけ。鼻の穴を大きく広げてあごを上げ、昂然と見下ろすようにしながら太い地声で話す、アメリカは「米国」と書く、日本人はおまんま=米を食べる、だから日本は必ず勝つとか何とか、自分はうまいことを言っていると思うのかどうか、わけのわからないことを自慢そうにしゃべる。
何を偉そうに、戦時をわきまえずみっともない化粧顔をして、となぜかものすごく反感を覚えたものだつた。
戦後も主婦連とかおしゃもじデモとかで割烹着・もんぺスタイル(もう少なくなっていたが)でデモをしたりする場面をニュース映画や新聞の写真で見たが、あのときの神主夫人の悪印象があるのだろう、どうしてもあのスタイルは好きになれなかった。
ついでに言えば、戦後女優から参議院の議長になった扇千景が当時眼鏡をかけて議院内を昂然と顔をあげて歩く姿、議長席から発言するときの太い声をテレビニュースで見聞きしたとき、1980年代までの消費者運動、婦人運動の女性活動家幹部の話しを聞いたとき、なぜかこの神主夫人を思い出したものだった。男に負けないように、バカにされないようにということからだったのかもしれないのだが。もちろん今はそんなことはなくなった(それについてはまた後に別途語りたいと思っている)。
それはそれとして、やがてもんぺ姿は都会では見られなくなり、もんぺデモも1950年代に入ると見られなくなってきた。
それどころか着物姿も徐々に見られなくなり、世の中の女性はすべて、洋服・スカート・スラックス姿に変わっていった。
同時に、農家の作業着としてのもんぺも見られなくなった来た。私の故郷山形ではそれでも残ったが、やはり少なくなり、それどころか女性の姿それ自体が見られなくなってきた。そのころからだった。農村の嫁不足が問題になってきたのは。
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