地ビールについて【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第250回2023年8月3日
網走・東京農大勤務を終えて仙台に帰って数年経った2010年ころの話である。仙台から車で30分くらい西に作並温泉があるが、その近くの野原を散策していたら何とホップが自生し、地べたを這いあるいはまわりの灌木にからまっている蔦にはホップの花がついているではないか(正確にいえばホップの親戚のカラハナソウの花だが)。
母が大正末期・小学校時代にカラハナソウを摘まされたというのはそこから一山越えた山形県側、きっと遠い親戚なのだろう、ここにも和産の野生ホップの花があった。
なつかしかった。花に鼻をつけて匂いをかいだ、何とも表現できない青臭い刺激臭(うまく表現できない、きついが悪臭ではもちろんない)、もう畑ではなかなかかげなくなっている、何年ぶりだろう。涙がにじんできた。。
「地ビール」にこれが使えないか。品種改良すれば日本に適する、日本人の舌・喉・身体によく適合するホップができるのではなかろうか。
そんなことを「地ビール」が大きな話題になったころ考えたものだった。しかし地ビール会社はそんなことは考えもしなかった。
そもそも「地ビール」とは単に4大メーカー以外の会社が今まで作ってこなかった地域でつくったビールというだけのものでしかなく、「地酒」とはまったく違う物だったからである。「地ビール」なるものはそもそも次のような経過でできものだったのであろう。
1994(平成6)年、酒税法改正でビール製造免許に必要な年間最低製造量が2,000キロリットルから60キロリットルに引き下げられた。つまり多額の資本金なしでもビール醸造業への参入が可能になったのである。
それで全国各地でビール醸造業への参入が相次ぎ、「地ビール」と総称されてブームになった。そしてそれは「地域おこし」の一つとしてもてはやされた。
私も地元の麦やホップを使ったビールを生産して販売することを可能にし、生産を回復させるものとして大きな期待をもった。
しかし、そのほとんどは「地ビール」とは言えないものだった。
「地酒」という言葉がある。辞書で調べてみると「兵庫県の灘や京都府の伏見以外でつくられる日本酒」、「全国的に流通する大手メーカーでつくられる製品以外の日本酒」のことなのだそうだ。
しかし、そうした酒であってもたとえば醸造アルコール+ぶどう糖を主原料としてつくられた戦後の酒のようなものを、たとえ地元で生産したとしても、地酒として地域の人たちが自慢するだろうか。
ある辞書にはさきほど言った定義に加えて「その土地の材料で作られた、その土地の日本酒」と書いてあったが、それが本来の「地酒」ということができるのではなかろうか。
もう40年も前になるが、今私が寒い時期の晩酌用としている銘柄の酒の酒蔵を訪ねたときのことである、そこの専務さん(当時)になぜこの地域に酒蔵をおいたのかとたずねた。そしたら彼はこう答えた、「昔から酒のうまさは『一水、二米、三杜氏』で決まると言われているが、この地域の水は非常に質がよく、しかも豊富に存在するのでここに決めたのだ」と。しかもこの地域は米の適地、それを利用できるのだからなおのことだとも言う。
そのときふと思った、なるほど、地酒と言うのは単に地方にある小さな酒屋の酒というのではなく、「水と米というその酒蔵の存在する地域の自然と産物を基礎にしてつくられた酒」を意味するものなのである。
そう考えると、本来の「地ビール」とは「全国的に流通する大手メーカーでつくられる製品以外のビールで、その製造場の存在する地域で生産される原材料が使われているビール」ということになろう。もちろん地域によってはその地域ですべての材料をそろえるわけにいかないところもあろうが、それは程度問題だろう。
ところが、そういう本来の地ビールは本当に少なく、「地水ビール」でしかなかったのである。
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