ハロウィンと「チャセゴ」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第260回2023年10月12日
十数年前になるだろうか、ある秋の日の午後、用事があって東京郊外のある町の住宅街の道路を歩いていた時のことである。幼稚園児と思われる子どもたちが10人くらい保母さんに連れられて歩いているのが眼に入った。その園児の服装がちょっと異様である、とんがり帽子のようなものをかぶり、マントのようなものを羽織っている。そしてあるお宅の前に止まった。するとお母さんと思われる女性が待っていたかのように玄関を開け、みんなにお菓子を配った。
その子どもたちがカボチャをくりぬいたお面のようなものをぶら下げているのを見て気が付いた、あ、そうか、今日はハロウィンの日か、それで仮装して園児の家庭を回っているのかと。もしかしたらキリスト教会経営の幼稚園かもしれない。と思ったのだが、付き添いの保母さんを見てみるとそんな雰囲気を感じない。園児の服装も普通の幼稚園とあまり変わりない。
そこでふと疑問を感じた。なぜクリスチャンでもないのにこんな行事をやるのだろうか。アメリカなど外国でこうしたことをやっているから、園児たちにやらせようということなのだろうか。
しかし、このように子どもたちが各家を回ってお菓子をもらい歩くという行事は日本の各地にあったはずだ。なぜそれを復活せず、クリスチャンでもないのに欧米のハロウィンの真似をするのだろうか。明治以降身についた日本人の欧米劣等感・もの真似癖がこうさせるのだろうか。
その昔、それぞれの地域にさまざまな祭りや盆踊り等の行事があり、これも子どもにとっては楽しい遊びだった。私の幼児時代(1930年代後半=昭和10年代前半)、私の故郷、山形市郊外の農家と非農家の混住地帯には、こんな子どもの行事があった。
迎え火から始まるお盆、これまた子どもたちの待ちに待った日である。めったに外に出られない夜、近くの子どもたちみんなが提灯やカンテラに灯をともして集まり、唄を歌いながら近所の家々をまわる。そうすると家の人が戸口に出てきて準備したお菓子や食べ物をくれる。しかしそのとき歌った唄がどうしても思い出せない。戦時中に禁止されたので私が歌ってまわった回数が少なく、戦後復活することもなかったせいだろう。
他の地域にもそうした行事があったはずだ、そしたらハロウィンなどやらずに、それを復活したらいいではないか。
数年前、そんなことを仙台の行きつけの居酒屋で私の後輩の畜産研究者・元山形大教授の萱場猛夫君に息巻いていたら、そこの亭主のAさんがカウンター越しにこう言う、その通りだ、自分も小さいころ小正月(1月14日)の夜にみんなで唄を歌いながら近所の家々をまわって餅やお菓子をもらって歩いたものだ、そしてそれを「チャセゴ」(注)と呼んでいたと言う。
しかもそのときの唄まで覚えていた。歌うと言っても、みんなで声をそろえ、調子を合わせ、大きな声を張り上げて囃すだけだったとのことだが。
「ぜにもち かねもち たからもち
おたくの だんなさん おかねもち
おいなして くない」
それを聞いていた萱場君が、亡くなったお祖父さんがその話をしてくれたことがある、自分の子どものころ(1944年生まれ)はなかったが、唄は覚えている、と言う。
そして玄関口に来ると最初にみんなで声をあわせてまずこう言ったものだと言う、
「アキの方から チャセゴに来すた(=来ました)」
そうするとその家の人が玄関を開ける、子供たちが外でさきほどの唄を歌う、終わるとお菓子をくれる、それから隣の家に行き、また歌うのだとのことである。
Aさんも、その通りだ、この行事の名前はその『チャセゴ』だったとうなずく。
Aさんの住んでいたのは仙台市南部の長町、萱場君のお祖父さんは中心部の通町、ということは仙台市内の各所でこのチャセゴの行事がやられていたことを示すものだろう(次回に続く)。
(注)
チャセゴ、これを共通語にすればどういう言葉になるのか、残念ながら私にはわからない。yahoo!
japanで検索してみたら、宮城県南の蔵王町ではこのチャセゴの行事が今もやられているとの記事があった。家内の実家はそこの近く、家内に聞いて見たら記憶があると言う。もしかすると宮城県全域でやられていたのかもしれない。今はどうなっているだろうか。過疎化少子化の進む中で消滅しているかもしれない。もしも残っていたら、何とかしてこの行事をこれからも保存してもらいたいものだ、文化財に指定してもいいのではなかろうか。
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