コメの市場があるメリットとは?その14「コメ卸の低いリスク管理意識」【熊野孝文・米マーケット情報】2023年10月17日
一般財団法人農政調査委員会は12日、第5回農産物市場問題研究会を開催、(株)ニップンの海外事業本部服部秀城チーフグレインアナリストが「国際穀物取引からみたコメ先物」と題して世界の穀物取引の現状や先物市場が果たしている役割を説明、「先物市場は経済のインフラ」でアメリカでは高校生が投資を教科書で学んでいる。コメについてはアメリカでは先物市場の価格が所得保障型作物保険の基準価格になっているという例も示し、指標価格形成の場としての先物市場の重要性を強調した。伊藤忠食糧(株)の前社長の近藤秀衛氏は「商社から見たコメ中間流通の課題」と題して、日本のコメ卸が価格変動のリスクについて管理意識が低いことを問題視、それを回避するためのシンプルな標準品で理解しやすい新たなコメ先物市場の上場条件を提案した。

近藤氏は、1975年に伊藤忠商事に入社、ニューヨークや北京駐在へ経て、2010年に自身の希望で伊藤忠ライスに入社、伊藤忠食糧(株)設立後2014年から2022年まで社長を務めた。伊藤忠食糧は伊藤忠商事100%子会社で、食料原料の国内販売を事業内容としており、年商は1908億円。このうちコメが700億円以上あり、商社のコメ販売子会社としては突出してコメの扱いが多いことなどを紹介した。
本題に移り、商社から見たコメ中間流通の課題として、コメ卸の問題点について、
①コメ卸は卸業か製造業か(大きな設備投資を行い精米という加工品を製造しているが、製造業と位置付ける意識が乏しい)
②低い利益(製造業でありながらコメ卸との位置づけ、また業界再編が進んでおらず過当な競争も見られ、同類の製粉業、製糖業比較で極めて低い利益構造にある)
③大きなリスク負担(低い利益構造の一方で、価格変動のある原料在庫を持つことや⦅相場変動リスク⦆資金負担を行うため⦅回収リスク⦆、取引上負担するリスクは大きい)
④低いリスク管理意識(バランスへの認識が薄く、価格変動に対するリスク管理が十分行われていないため、結果相場に翻弄され、欠損を余儀なくされる経営に陥りやすい)
―4点を挙げた。
コメ卸業界の現状は取扱量1万トン以下の卸が半分を占め、営業利益率は小麦粉製粉業が平均で4.3%あるのに対してコメ卸は0.8%しかない。
さらには精米工場の稼働率は精米ライン数の減少で向上したものの、それでも64%止まりなどと言った数字を示した。
とくに経営上の大きな問題になっているリスク負担について、その発生要因として<契約履行>(川上・川中=契約概念は高く拘束力は高い。川下=契約概念はあるものの拘束力は弱い。慣習、他社との競合の結果、川下の契約不履行等にともなう在庫リスクを卸が負担するケースがみられる)<資金負担>(川中に大きな在庫負担と回収リスク=JAや集荷業者との決済は受渡し7日決済であるのに対して、小売との決済は受渡し後30日以上)などのリスクが存在する。

伊藤忠食糧がどのようにリスク管理しているかについて、「バランス管理」の手法を示し、初級の商品バランス講習会から上級のボラティリティを使ったリスク金額定量についても説明。損益を日ごとに管理して、損失については損切ルールに基づき恣意を入れずに自動的に処理していることや、Value at Riskによる客観的なバランス枠、損出限度を設定していることも紹介した。
具体的なコメの取り組みとしては、生産者との新たな取り組みとして、播種前に生産者に対して買取価格を提示して契約、その場合の買取価格は「地域のサラリーマンと同程度の所得確保を可能とする価格」で、価格変動のリスクは伊藤忠食糧が負担するとし、事例として30haを耕作している生産者に1俵1万3000円の買取価格を示して契約している事例も示した。
こうした取り組みを行っているが、これらは一部で、企業として取り得るリスクには限界があり、コメ全体のリスク回避策は「現物・先渡し、先物市場を介した恣意のない価格形成、需給調整が望ましい」とした。先物市場を利用した取引提言として①先物市場の機能性②先物市場活用の啓蒙が一層重要になる。
先物市場への上場条件としては、以前あった産地品種別上場は力の分散を招いており、シンプルな標準品を上場すべきであるとした。その場合、当業者が求める現物の受け渡し(産地銘柄、等級など)はベーシスに落とし込むことで可能になる。
また、先物市場を活用した播種前買取契約がリスクを抑えながら拡大でき、集荷業者や中間流通業者は指標価格とヘッジにより安定的に必要な量を確保できるとし、様々な有用性と機能性を強調した。
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