主食用米の有利性がはっきりした6年産米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年1月30日
1月23日に実施された6年産政府備蓄米買入入札の落札結果で2つのことがわかった。
一つは事前の予想通り応札するところが少なかったこと。様子見と言うより応札することのリスクを回避したという面が強い。もう一つは農水省が落札価格の基準について従来の方式を変えていないこがわかったことで、これで第2回目以降の産地側の対応が決めやすくなった。ただし、その場合、価格的に有利になった主食用米の作付面積が増えるという要因が強くなるものと予想される。
6年産政府備蓄米第1回目の入札は、20万5509tの買入予定数量に対して入札資格者141者のうち61者が5万1030tを応札、18社が6637tを落札した。落札した比率は3.2%に留まった。応札数量が少なかったのは様子見と言う面もあったが、応札資格者の中には、はじめから政府備蓄米の応札は見送るというところや落札価格が1万4000円には届かないと予想されることから「1万4000円以下の価格では応札すること自体にリスクがある」と判断していたところもあった。また、実際に落札できた価格水準も推計で1万3400円台であったとみられ、それ以上の価格で札入れしたところは不落になってしまった。第2回目は2月13日に開催されるが、応札資格者は「農水省は落札数量が少なかったことを理由に落札価格水準を引き上げることはないだろう」と見ており、産地側としては1万3400円台で応札するか否かの判断が問われることになる。
6年産米で主食用米以外の用途の状況は、最も生産量が多い飼料用米は、飼料用米の専用品種でないと助成金が満額受け取れないように制度が改正されたことや生産者の手取り比較でもメリットがなくなっている。具体例として主食用米の販売価格が安い埼玉県の大規模生産者は、5年産では飼料用米を18haで生産していが、6年産では10haに減らす方針。埼玉県は飼料用米を作付けすると国の水田活用直接支払い助成金10a当たり8万円のほかに産地交付金の追加配分として10a当たり3800円が加算され、合計8万3800円が支給されるが、それでも基準数量の単収では主食用米の手取りを下回る。この生産者が営農する地区の基準単収は514kgで、飼料用米への販売価格は60kg当たり660円であるため助成金を加えても10a当たりの手取りは8万9454円。これに対して主食用米の販売価格は60kg当たり1万0925円と他産地に比べて安いが、10a当たりでは9万3591円になる。主食用米品種で基準単収を満たしても飼料用米を作付けするメリットはないのである。飼料用米でメリットを得ようとすれば、収量加算助成金を得るために538kgの収量を得なければならない。収量を上げるには多収の飼料用米専用品種を用意して肥料等の資材もそれなりに確保しなくてはならない。そこまでするよりも価格の上昇が見込まれる主食用米の作付けを増やした方がメリットがあるという経営判断。飼料用米を作付けしている他県の大規模生産者も大方は同じような判断をしていると思われる。
飼料用米以外では、米粉用米、加工用米が上げられるが、助成金単価による判断以上に難しいのが「買い手探し」である。国は米粉用米の振興に力を入れているが、もともと需要のキャパが少ないことから新規に買い手を探すのはハードルが高い。また、加工用米はうるち米もち米とも需要者は既存の産地との取り組みを優先、新規に契約に結び付けるのは難しい。
可能性があるのが新規需要開拓米の括りに入っている輸出で、中でもパックご飯の輸出に関心が集まっている。
タイミングよくアイリスオーヤマが1月24日にアメリカ向けにFDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を得たパックご飯を今月から輸出すると発表した。同社は今年九州に50億円を投入し新しいパックご飯工場を建設する計画を持っており、この工場が完成すると東南アジアなどへの輸出も視野に入る。ただ、必ずしもアイリスオーヤマのようなところだけではない。大手の中にはパックご飯の製造ラインを1ライン閉鎖したところや輸出用製造ラインの設備投資を計画していたメーカーの中には当初30億円と見積もっていたが、投資額が急増してペンディングになっているところもある。この会社は長年パックご飯の輸出に取り組んできたが、現在40万パック程度の輸出量に留まっており、担当者は「他国で生産されるパックご飯に比べ日本のパックご飯の価格は3倍するので販路を広げるのは容易ではない」と言っている。プロモーション予算を増額しても商品価格が高いという本質的な問題を解決しない限り輸出が伸びることはない。
結局、6年産米は主食用米の作付けが増え過剰になり価格が下落すという同じことの繰り返しになると見ておいた方が無難だ。
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