ごはんお替り無料を止めない大手外食企業【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月15日
農水大臣が第3回目の政府備蓄米追加売却を発表した同じ日に都内で外食企業とコメ卸が7年産米に向けての取組みを協議する場があった。外食企業側は団体のアドバイザーとレストランチェーン店を展開する大手2社で、いずれも国産米にこだわっており、外国産米は使っていない。このうちの1社は国産米が高騰しているにも関わらず「ごはんお替り無料」を続けている。その理由は、この企業の創業者が「お客さんに腹いっぱいごはんを食べてもらいたい」と言う思いで起業したのが始まりで、コメの価格が上がったからと言って創業者理念を翻すわけにはいかないという。
政府備蓄米の追加売却は10万トンを今月21日の週に実施され、その後、毎月行われる予定。これは総理の指示とされ、コメ問題は官邸案件になっているので、これまでと違って大胆にかつ確実に実施されることになる。このためコメ業界の受け取り方もこれまでとは違ってきている。4月以降毎月端境まで10万トンずつ売却されるとなると4ヶ月で40万トンになり、第1回、第2回分と合わせると総量は60万トンを超えることになり、業界で言われる不足分がほぼ埋まることになる。ただし、追加売却される分は5年産からさらに古い4年産米を売却しないと数量が確保できず、そうした古古米に消費者がどう反応するかという懸念もある。不思議なことに飼料用米から主食用に転用できる6年産米があるはずなのだが、農水省はいまだに飼料用米の活用に言及していない。おそらく世論から「餌米を人間に食べさせるのか」と言う反発が沸き上がるのを警戒しているのかもしれない。
追加売却に対する市場の見方は、5年産や4年産米が売却対象になるとブレンド原料として6年産米の雑銘柄、未検、中米等が必要となり、これらの市中相場は下らないと言った見方や早場産地ではかえって7年産新米の価値が高まると予想している向きもあり、それぞれのポジションによって見方が分かれる。しかし、供給量が増えることだけは確実で売却されるたびに市場のスポット価格にも影響が出て来ると予想される。
14日には農水省はコメの流通業者と意見交換会を開催したが、これも不思議なことで、このコラムでも何回も取り上げているようにコメの流通業界のみならず、コメ加工食品業界、中食・外食団体などコメに関連する団体は何度も農水省を訪れて業界の苦境を伝えている。さらには、つい最近もコメ加工食品業界が加工原料米だけでなく一般米も使用しているため7年産の生産量が減少しないように対策を講じるように要請している。これは農水省が「主食用米だけの対策」を行っているのに対して、これらの業界も一般主食用米を使用しているほか、主食用米の高騰で酒米やもち米の7年産生産量が減少、必要量を確保できなくなるという恐れがある。国が生産調整のやり方を「ネガからポジに反転させるのなら農水省は早めに方針を示し、酒米やもち米と言ったコメ(用途に合わせた需要のあるコメ)に支援策を講じるべき」というコメ政策の根本にかかわる問題意識を持っている。
11日に行われた外食企業とコメ卸の協議では、事前の感触では7年産米の購入契約に当たって数量はもちろん価格にも言及するところまで行くと予想されていたが、直前に伝わった政府備蓄米追加売却の情報によって具体的課題まで話し合うことは出来なかった。コメ卸側はすでに7年産米の事前購入価格を産地と交渉しているのだが、これはあくまでも買い手の実需者に結び付けるための交渉で、何よりも価格を固定して契約する必要があった。そのために生産者とコメ先物市場で形成される7年産米の価格で契約することで合意するところまでに至った。ところが政府備蓄米の追加売却どころか食料・農業・農村基本計画では制度そのものも変わるような勢いになっており、先物市場で形成されている7年産米の価格が収穫時に現物価格とリンクするのか懐疑的になっている。石油先物市場では補助金を出してガソリンの価格を固定したところ先物市場の出来高がゼロになったケースを引き合いに自然の動きとは違う価格が形成されるので、今の時点で先物市場の価格を使って大量に産地と実需者を結び付けて契約するにはいかないとこの卸の経営者は語る。政府備蓄米追加売却で方針変更を余儀なくされたのはこの卸だけではない。最も大きな影響を受けたのが全農系統と事前契約を協議していた大手卸も同様で、事前契約そのものにリスクを感じるまでになっている。
11日の協議に参加した外食企業のうち1社は7年産の話ではなく、7年産が出回るまでのつなぎを何とかしなくてはならず「とりあえず1000トン」と卸に依頼した。そうしないとお替り無料どころか「ごはん」そのものを提供できなくなってしまうのだ。
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