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「除草」されるイモ・ダンプに乗せられるイモ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第339回2025年5月8日

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 四半世紀も前の話になるが、東北大を定年になった1999(平11)年4月、私は二度目の職場として東京農大生物産業学部に勤務することになった。ここは北海道網走市にあるオホーツクキャンパスにあるが、学生のほとんどは都府県の非農家出身者である。だから北海道の農業、農家のことをあまり知らない。それで、入学した2ヶ月後、実際に農家に行って農業の実習をさせてもらうことでまず勉強させることにしているのだが、第1回目の6月の場合は農繁期ではないのであまり仕事がない。しかも学生はまったくの素人である。それで多くの農家は畑の草取りを手伝わせる。農薬や機械で除草しているといってもやはり草は生えるし、その伸び方は都府県よりもずっと早いので、手で取ることが必要なのである。大面積の畑を何百メートルも行ったり来たりして草を取るのはけっこう大変である。そこで私たち教員は、学生を引率して行って農家に預けた後、学生がきちんと働いているか、何か問題が起きていないかを車で見てまわる。何しろ広大な畑、学生がどこの畑で働いているのか探すのも大変、全部まわるのに十分に一日かかる。

ビート(=甜菜)畑で草取りをしているところに行ってみる。どんな雑草が生えているかを見てみると、よく見るいわゆる雑草はまだ少ない。大半がジャガイモだ。昨年穫り残したイモが発芽してビートの畝間に伸び伸びと成長しているのである。これを他の雑草といっしょに取って捨てるのが仕事だ。
 イモの苗を引っこ抜くのが除草、草取り=イモ苗取り、何とも奇妙である。大小さまざま、大きい苗のなかにはすでに小イモを根につけているものすらある。抜くのは何とももったいない気がする。農家の方にそういったら「そうだなあ」と苦笑する。とは言っても収穫時期は忙しくてイモ拾いなどしている暇がない。一戸平均10haのジャガイモ畑、拾って歩くなどというのは容易ではないのである。

 農家の方はその話の後にこんなことを付け加えた。
 「その昔は掘り残したイモは一冬越すとみんな凍って枯死したものだった。ところがこの頃は凍らずに残り、春になると芽生えてきて作業のじゃまをする。昔みたいに寒くなくなったからだが、これも地球温暖化のせいなのだろうな」
流氷の来る日数も量も減っているらしい。かつては大量の流氷が押し寄せてきて浜辺に山のように盛り上がり、海沿いの道路から海が見えなかったものだったそうだ。ところが今はそんな景色は見られない。年々減ってきている。私がいた七年の間でさえ毎年流氷は少なくなっていた。農家の方のいう通り、地球温暖化は「着実に」進んでいるようである。

網走市街地から屈斜路湖、摩周湖に車で向かうときは、オホーツク海・釧網線に沿って北浜駅(注)のところまで行き、そこから右折して藻琴(もこと)湖と濤沸(とうふつ)湖の間を通り、広大な畑のど真ん中を貫くほぼ一直線の道路を走って行く。対向車はほとんどない。自分の車の専用道路のようである。
 その途中、道路沿いに高い白色のタワーが建っている。農協の澱粉工場である。
9月末のさわやかに晴れた秋の日、左側に知床連山と斜里岳を見ながら、その道路を気分良く走っていく(運転は家内、私は免許がない)と、突然反対車線にダンプカーがずらっと並んで停車しているのにぶつかる。数十台はいるのではなかろうか。荷台にはジャガイモがうず高く積んである。そうだ、今はジャガイモの収穫最盛期だ。ダンプは一台ずつ道路脇の澱粉工場に入り、イモを荷台から降ろしてまたイモ畑に向かって出て行く。しかしダンプの台数は減らない。後から後から続いてくる。こんなに農家はダンプカーを持っているのだろうか。収穫だけではなく運搬までしていたら労力も時間もかなりかかるだろう。
 そんなことを思いながらダンプをよくよく見ると、荷台の横や後ろに運送会社や土建会社の名前が書いてある。そうか、農家はジャガイモの運搬をそうした会社に委託しているのだ。
 澱粉工場ばかりではない。ポテトチップの工場や生食用の貯蔵庫への運搬もある。しかも網走市内だけでイモ畑が3000haもあるのだ。ダンプは大忙しだ。それが収穫期間の約一ヶ月近く続く。
10月末になるとビートの製糖工場への運搬がある。ビート畑も3500haある。農家も共有、個別所有のダンプなどで運搬するが、大半は委託だ。
 後で聞いたら、会社はその運搬受託を勘定に入れて本業を経営しているのだという。つまり農業があって経営が成り立っているのだ。したがって、もしもイモやビートの生産がなくなったら、運送業や土建業の経営が成り立たなくなる。澱粉や製糖などの農産加工や農業機械等の関連産業ばかりではないのだ。自動車会社やガソリンスタンドも潰れてしまう。北海道の産業は農業が支えているのである。
 そんなことをしみじみ感じさせた21世紀初頭の網走の秋だった。

私が農大も定年になって網走を去ってから、もう20年近くなる。片や雑草として引っこ抜かれるイモ、片やダンプに乗せられ真っ白な澱粉(片栗粉)となるイモ、一面の白もしくは紫の花で彩られるあの雄大な畑、なつかしい、もう一度見てみたいものだ。
 しかし老人ホームに引退した身、もうあきらめてはいるのだが、それでも懐かしさに胸がうずく。

(注) 日本で一番海に近い駅、古い駅舎に風情があってさまざまな映画の撮影場所となってきたことで有名、さらにオホーツク海の向こうに知床半島がきれいに見える、流氷が目の前で見られる、すぐ近くにハマナスやエゾスカシユリなどの乱れ咲く原生花園がある等々で、観光客の人気スポットとなっている。

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