歴史の改ざんを許さない【小松泰信・地方の眼力】2025年5月14日
かげろうに友消えゆけり原爆地 切明千枝子(広島市・95歳)
平和は油断すると逃げていく
切明氏は15歳の時、広島市で被爆した。現在、広島市の最高齢「被爆体験証言者」である。
NHK広島放送局の情報番組「コネクト」(5月9日)は、氏の「日常」に半年間密着したドキュメンタリーを放送した。
80年前のあの日について、「何とか助けたかった。でもねぇ。助かりはしませんでしたね。私は何人も何人も下級生をこの手で火葬にしたの。全身水ぶくれ。誰が誰だか分かんない。次から次へ死んでいく。グランドに人が一人横たわれるぐらいの穴を掘って、木造校舎の破片を拾ってきて火をつけて、火がゴーっとまわるでしょ。そしたらねぇ、筋肉がその刺激を受けて動くんです。手足が。『先生動いていますよ。まだ生きてるんじゃありませんか』って叫んだ。先生が『見るな』っておっしゃったの。見るなと言われても、体が金縛りになってね。横向くことができない、目を閉じることもできない。ガタガタ震えながらね。かわいそうでした。ご遺骨はね、桜の花びらのような色。薄いピンクがかった白。それを見たときに初めて涙が出ましたねぇ。泣きながら骨を拾った」と語る。
「この子たちをあのときの広島の子どもたちのような目に合わせちゃいけないぞという思いに駆られるといいますか。それでやっとね、皆さんの前で被爆証言ができるようになったんです」とは、親となり家族が増えていく中で湧き上がってきた思い。
「私は幸せ者でございます。それにつけても、やっぱりあの時に亡くなっていったクラスメイトや友達のことを思いますね。あの人たちが生きてたら、やっぱりいいおばあちゃんになってただろうにねって」と、亡き人々に思いを馳せる。
「平和なんていうものはね、腰掛けて待ってたら向こうからやってくるものではないと思うんですよ。ちょっと油断するとね、飛んで逃げていく。逃さないようにしっかり握りしめて。そうしないとね、本当の平和はやってきませんよ」と、警鐘を忘れない。
「自分たちが納得できる歴史」は作れるの?
この番組を見て、時の人である自民・西田昌司参院議員はどのような感想を抱くだろうか。
5月3日の沖縄県那覇市における憲法講演会で、同氏が発した問題発言の概要はつぎの通りである。
――あのひめゆりの塔で亡くなった女学生の方々がね、たくさんおられるんですけれども、あの説明のしぶり、あれを見ていてると、要するに日本軍がね、どんどん入ってきて、ひめゆりの隊がね、死ぬことになっちゃったと。そして、アメリカが入ってきてね、沖縄は解放されたと。そういう文脈で書いてるじゃないですか。あそこは。そうするとね、あれで亡くなった方々、本当に救われませんよ、本当に。だから歴史を書き換えられるとこういうことになっちゃうわけですね。
沖縄の場合にやっぱり地上戦の解釈を含めてですね、かなりむちゃくちゃなこの教育のされ方をしてますよね。だからそのことも含めてもう一度、その流されてる情報が、何が正しいのかどうかということをですね、自分たちで取捨選択してそして、自分たちが納得できる歴史を作らないといけないと思いますよ。それをやらないと、日本は独立できないんです――
謝罪にほど遠い記者会見
多くの批判が寄せられたことを受け、5月7日に記者会見。しかしそこでは、「今回の発言で県民を傷つけたとの報道になっているが、そういう意図はない。切り取られた記事が誤解を生んだ。そこは非常に遺憾に思う」と述べ、発言を撤回しなかった。
毎日新聞(5月8日付)によれば、ひめゆり平和祈念資料館の普天間朝佳館長は報道陣に「(沖縄戦の)体験者の思いを否定するものだし、踏みにじるものだ」と憤りをあらわにした。展示内容はひめゆり学徒隊の生存者たちが互いに聞き取りした証言や沖縄戦の資料に基づいているとし、「一方的に(日米の)どちらが正しい、悪いという展示はない。ないことをあるように言っていることに疑問を持った」と語っている。
火に油を注ぐことに慌てたのか、9日に再び記者会見し、「丁寧な説明なしにひめゆりの塔の名前を出したこと自体、非常に不適切だった。沖縄県民、ひめゆりの塔の関係者におわびを申し上げる。発言は訂正削除する」と謝罪した。ただし、展示を巡る事実関係については「事実だという前提で今も話している」などと主張するとともに、「...かなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている。自分たちが納得できる歴史をつくらないと...」という発言についても撤回しなかった。
歴史を書き換えているのはだれだ
高知新聞(5月10日付)の社説は、「独り善がりの持論を無責任に発信し、地元の感情を逆なでする人物に国会議員の資格、資質はあるのだろうか」と指弾し、「『ひめゆりの塔』の認識をゆがめ、戦争体験者も含めて史実を検証し、後世に継承しようとしてきた大勢の人たちを愚弄したことになる。地元から強い反発が出たのは当然だ」とする。
「『自分たちが納得できる歴史をつくる』と平然と言えることに危うさを覚えている」とした上で、根拠の不確かな印象論の押しつけこそが「歴史の書き換え」と断ずる。
沖縄タイムス(5月10日付)の社説は「参院選挙を前にした形式的な撤回ではないのか。真摯な対応には見えない」と記す。
教育に関する発言に対して、「占領当初、米軍は日本の教科書使用に反対していたが、予算上の理由から方針を転じ、1948年からは沖縄でも日本の教科書が輸入、使用されている」ことを紹介し、「認識不足もはなはだしい」と斬り捨てる。
琉球新報(5月10日付)の社説も、「この程度の『謝罪』や『撤回』で県民が納得すると思っているのならば認識不足だ」と怒る。謝罪会見で、「ひめゆり」に関し発言するTPO(時と場)を誤ったと語ったが、「『TPO』にとどまる話ではない」「両施設(小松注・ひめゆり平和祈念資料館と県平和祈念資料館)とも体験者証言と沖縄戦研究の積み重ねによって展示物が構成されている」ことから、「そもそも、西田氏の歴史観で覆されるようなものではない」とズバリの指摘。
最後には、「西田氏のような歴史観が自民党政権を覆っているなら危機的状況だと言うほかない」と、政権に怒りの拳を向ける。
「証言」の価値
切明氏は、「歴史を忘れてしまうとね、また同じことが繰り返される恐れがある」とも語っている。
西田発言は、「歴史を忘れる」のではなく「歴史の改ざん」を企図したもの。断じて許してはならない。
魂のこもった数多の「証言」は、おろかなる人間たちへの贈り物。それには、恒久平和の願いがこめられている。
「地方の眼力」なめんなよ
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