【浅野純次・読書の楽しみ】第109回2025年5月16日
◎河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書、1034円)
著者が3年前に著した『成長の臨界』は大変な力作でしたが、500ページを超える大著で価格もそれなりでしたので、本欄では遠慮しました。その点、本書は主な論点はそのままに平易に述べられていて何よりです。
「失われた四半世紀」の間、実質賃金はまったく上がりませんでしたが、生産性が上がらないのだからしょうがないと盛んに言われてきました。でも実は30%も上がっていたこと、そしてこの間、生産性の伸びが日本以下だった独仏では賃金は15~20%上がり立派に経済成長したことが明らかにされます。
日本の経営者は大株主の意向を忖度しコストとしての賃金を抑え利益確保、増配、留保に走ったのでした。実質賃金が低下する中で消費は低迷を余儀なくされ、深刻な需要不足経済が続きました。
日本はなぜこんな収奪的な経済システムに入り込んでしまったのか、さまざまな問題点が解明されます。「ルイスの第2の転換点」だとか経済学の成果もたくさん登場しますが、わかりやすく書かれているのでゆっくり読めば大丈夫です。
日本経済の最大の問題点である「合成の誤謬」を追究した目から鱗の内容には感服の一語です。日本経済論のベストの一冊として一読をお薦めします。
◎矢野裕児・首藤若菜『間違いだらけの日本の物流』(ウェッジ、2090円)
「2024年問題」など人手不足が特に懸念されていたのが介護の分野とバスやトラックのドライバーです。本書は長距離運送の実態を紹介、解明しつつ、低収益、過重労働、低賃金、そして人手不足の悪循環からの脱却の道を探っています。
この業界は小規模零細事業者が多い、何重にも下請けが入り組んでいる、非効率な長時間労働が常態化している、など典型的な過当競争業界となっています。発送側、荷受け側とも荷主が自己都合優先で「非効率」を零細運送業者に押し付けていて、長距離運送の持続可能性が危ぶまれているのが実情です。
では対応策は? 著者はワークルールの順守、運賃制度や契約など商慣行の改善、荷主や消費者の意識改革などを提案します。みなそのとおりでしょう。
農産品も長距離輸送に支えられており、本書も多くのページを割いて農産品物流の課題と対応を論じていて大いに参考になります。物流が電力、水道と同じ社会インフラであることの意味を改めて考えさせられました。
◎望月衣塑子『軍拡国家』(角川新書、990円)
防衛、食料、エネルギーは最重要の安全保障トリオですが、昨今、美名の下に軍拡政策に拍車がかかっているとする著者の危機感は強烈なものがあります。
長く堅持されてきた防衛費のGNP比1%が岸田政権から急速に2%に向かい始めたのみならず、歴代内閣が抑制的だった武器輸出政策も岸田政権で一変しました。戦後初めて、殺傷能力のある武器を輸出することが可能になっています。
一方、武器輸入は安倍政権から激増し始めていますが、無人偵察機グローバルホーク3機の例は象徴的です。機体の5倍近い維持費を要求され、しかも納入時には米軍が「退役」にした、というのはあまりにひどいのでは。
武器輸出の拡大、マスコミの幹部たちによる防衛産業拡大(!)要請、要塞化する南の島々(ルポ)、軍事研究に巻き込まれる学問の世界など、「軍拡」が進む日本への警鐘が鳴らされます。ここまで来ているのかと寒々した感にとらわれました。
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