【哀悼・宇沢弘文氏】世界的経済学者の逝去を悼む2014年9月30日
宇沢弘文先生が亡くなられた。86歳だった。最も尊敬する経済学者の一人としてまだまだ活躍していただきたかった。本当に残念である。
農業にも深い関心
宇沢さんの活躍と功績は人生の前後半で大きく異なった。前半はスタンフォードやシカゴ大学で数理経済学者として素晴らしい業績を挙げ、いつノーベル経済学賞をもらってもおかしくないと言われるほどの巨大な足跡を残された。
ベトナム戦争に深入りするアメリカに絶望して日本へ戻られた後は、水俣病などの環境問題や都市問題に深くかかわり、行動する学者としての後半生だった。高度成長期に『自動車の社会的費用』を出版されたときの衝撃はいまだに忘れがたい。
◇ ◇
その後、炭素税の提言や成田空港建設問題など多方面で活躍された。大気や水といった環境資源、教育、福祉、医療など地域の経済文化を維持していくために不可欠な「社会的共通資本」の概念を切り開かれたことは、宇沢さんの最大の功績の一つだと言われている。
まさに『経済学と人間の心』という著書のタイトルそのままに、人間の心を欠いた経済学はいかに精緻で利益や成長に貢献しようとも、けっして世のため人のためにはならない、という堅い信念に基づいた後半生だったように思う。
◇ ◇
当然のことながら、宇沢さんは農業にも深い関心を持たれた。成田空港反対派の農民と触れ合う中で、土地にこだわる農民の姿に心底から同感し、支援する側に立った。
本紙(農業協同組合新聞、JAcom)にもたびたび登場してTPPが農業や地域社会を崩壊へ導くものだとして真っ向から反対されたことは記憶に新しい。宇沢さんの遺志をしっかり守っていくことが今、私たちには課せられているのだと改めて思う。
◇ ◇
さて宇沢さんといえば真っ白な長いヒゲがトレードマークだった。さぞ手入れが大変だろうと思ったが、「ほとんど手入れはしないんですよ」とおっしゃっていた。お気に入りの赤いベレー帽に赤と黒のリュックを背負い、歩ける限りは歩くというのが信条だった。
お酒をこよなく愛し、酒とおしゃべりはエンドレス、つき合わされたら大変だった。学問では厳しかったそうだが、普段は気さくで楽しい先生で、特にアルコールが入ると談論風発、学者の誰某について井戸端風のゴシップを披露されるのが面白く意外でもあった。
私が理事長時代の経済倶楽部では二度、講演をしていただいた。シカゴ大学で同僚だった新自由主義のミルトン・フリードマンについての痛烈極まりない批判が印象的だったが、2010年1月、二度目の講演で冒頭、こう言われた。
「去年ここで、私としては割合いい話をしたと思って、そのときの講演録を妻に読ませたんですね。そしたら『あなた、こんなばかな話をしておカネをもらっているの?』と言われたんです。(笑)いやあ、もう本当に恥じ入りました。(笑)」。
世界的経済学者の宇沢さんがたいへんな恐妻家であり愛妻家でもあることがわかって、出席した会員たちはたいへん喜んだことであった。心からご冥福をお祈りしたい。
浅野純次(石橋湛山記念財団理事)
(関連記事)
・【TPP】参加断固反対 国民会議が緊急アピール(2013.03.04)
・【提言】 ―協同組合の役割を考える― 協同組合人の新たな役割 経済評論家・内橋克人(2012.10.10)
・「TPPから日本を守りたい」宇沢東大名誉教授が代表に TPPを考える国民会議が発足(2011.02.24)
・【特別寄稿(下)】菅政権のめざすことと、その背景 宇沢弘文・東京大学名誉教授、日本学士院会員(2011.02.23)
・【特別寄稿(上)】菅政権のめざすことと、その背景 宇沢弘文・東京大学名誉教授、日本学士院会員(2011.02.14)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日