JAの活動:農協改革元年
多面的機能で地域底上げ 現場に合わせ改革工夫を2015年4月22日
「一人ひとりを大切に」
インタビュー根井輝雄さん西日本新聞社経済部デスク
本シリーズではJAグループ関係者以外から「農協改革」への課題や期待を聞いてきた。今回の農業・農協改革の論議では全国紙をはじめとしたメディアも注目し、その論調も議論に影響を与えた。では地方メディアはどう見ているのか、地域農業、農協について語ってもらおうと、福岡市に本社を置く西日本新聞の経済部、根井輝雄デスクを訪ねた。
――今回の農協改革の議論をどう見ていましたか。
先日、福岡県内のある農業者の方と大手町のJAビルが話題になりました。経団連や日経が隣にあるあのビルについて、敷居が高い、いつ行っても気後れすると言っておられました。かつて大手町周辺を取材で回っていた私にも実はその感覚はあります。
おそらく地域の農業者の多くにとって、あそこはわれわれの総本山、すごいんだぞ、という気持ちよりも、向こうは向こう、自分たちは自分たちという気分的なかい離があるのではないか。おらがJAの総本山だというより、遥か向こうの中央、という心理的な距離がある気がします。
今回の農協改革は政府がそもそも何をやろうとしているのかよく分からないという問題はあります。しかし、全中が一般社団法人になるという方向に関しては、やはり現場と全中との距離感、言い方は悪いかもしれませんが、地域の農業者が全中という組織を絶対守らなければいけないという気分がなかったのも背景にあるのではないかと感じています。
一方、政府のいう地方創生もよく分かりません。地方を元気にする、といったときに、どのレベルで見るか、です。東京から見れば福岡も地方でしょう。しかし、九州でみれば人口100万規模の福岡市は大都会なわけでそこに違和感を感じます。
各県でも県庁所在地レベルなのか、それともさらにその先までみての地方創生なのか。県庁所在地で経済状態が上向きになったといっても、それは周辺部からの人口流入が支えていたりする。地方とは、どこを指すのか、です。
だから、福岡も東京ではないから地方、しかし、九州のなかでは都会だと九州のほかの地域を上から目線で見かねない。どこから人が集まっているかといえば農村地帯、その農村地帯は疲弊している。福岡はこういう二重性がすぐ近くに見えるからこそ、さらに現場、さらに現場と九州の津々浦々まで見る姿勢を持たなければと思っています。
(写真)根井 輝雄さん 西日本新聞社経済部デスク
――農業、農村のどんな実態を感じていますか。
たとえば、福岡県では定年になって自分の家に帰ってきて農業を継ぐというパターンが結構多くなっているのではと感じています。
先日、筑後平野の農家の方から話を聞きましたが、農地の集約が進まないのが問題だとしばしば言われるけれども、もう集約は終わっているんだという。
集約されない農地はあるけれども、それは定年退職した後に自分が農業をするために自分で持っている、だから人には貸そうとはしないということです。だから、集約が進んでいないように“見える”、でも、農地を引き継ぐ人はきちんといると。自分で引き継ぐつもりだから集約されていないだけで残りはもう貸しているんだ、この地域の農業は続いていく、とのことでした。
農地の集約といっても単純ではない地域事情や、さらに住んでいる人たちそれぞれの時間軸も反映していると実感しました。
そういう動きのなかで最近はインターネットの発達もあって農産物の直売など積極的に手がけている農家も増えてきたし、6次産業化に取り組み加工販売する人たちも含め、そんな元気な農業者を紙面で特集したこともあります。私が農業取材に取り組みはじめた90年代末にくらべ、販売にしても資材の購入にしても必ずしも農協を通じなくてもいい、という組合員は多く、農家と農協とのつながりが薄れているのではないかとも思います。農協も組合員一人ひとりのフォローがおろそかになってきていないか。
ただ同時に、もうひとつ薄れていることに、農業の多面的機能があるのではないかとも思います。これは中山間地域の農業を維持するための切り札として強調されたと思いますが、最近の農業の成長産業化という声に押されてしまっている。中山間地域の現場からは、成長産業化などといわれてもどうしようもないよ、という声も聞きました。改めてすべての地域を底上げする政策のためにも農業の多面的機能を強調する必要があると思います。
――改めて農協に何が期待されますか。
農業の成長産業化が強調されるほど、国のいう地方創生は本当に山奥まで届くのかと違和感を感じます。
そこで農協への期待ということでいえば、協同組合はすべての人を一人ひとり大切にということですし、農協はその地域にとってほかに代わりのきかない組織です。地方創生といっても、どうやらあまねく創生するのではないのだとすれば、津々浦々という単位で農家や住民をここでもう一度束ねるのが農協ということになるのではと思います。
――農協も合併して大きな組織になりました。市町村も合併が進み「地域」といっても、それぞれが捉える地域の範囲がずれてしまっていないかも気になります。
今回の問題でいえば津々浦々というイメージ、集落という視点があるかどうか、こういう地域論は農協の組合長さんたちにとっては当たり前のことだとむしろ期待します。農協は一人ひとりのためにという理念に忠実に実態を合わせる工夫をしてほしいと思います。
福岡県で有名な取り組みとしてJA糸島の直売所「伊都菜彩」があります。土日は車で溢れかえる賑わいですが、それはやはり都市住民にも農協が運営しているという信頼感があるからです。
その他の農協の直売所もかなり人気で、中規模な都市、周辺は農村地帯という環境のなかで、農協が運営する直売所が起点となって、都市と農村の連携もうまく機能していると思います。
【略歴】
1965年宮崎県生まれ。90年西日本新聞社入社。佐世保支局、島原支局勤務などを経て経済部。東京、北九州、長崎勤務などを経て本社。
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