JAの活動:JA 人と事業2015
【JA 人と事業2015】久保田 清忠・JA加賀代表理事組合長 階層別研修で職場風土刷新2016年1月13日
人づくりは基本モラルからJA加賀・石川県
・職員と組合員の繋がりが希薄に
・見ぬふりは駄目「凡事徹底」を
・全職員が参加し意識の共有図る
・直播でコスト減担い手が拡大へ
・ブランド品目に「加賀九谷野菜」
石川県のJA加賀は、自己改革の実践に向けた人づくり・職場づくりとして、階層別研修の実施に工夫をすることで成果を挙げている。併せて言葉遣い、身だしなみなど人としての基本的なモラルを重視し、職員を指導するとともに役員自ら範を示すべきだと考え、久保田清忠組合長自ら率先垂範し、職場風土の改善に努め、これからJAを担う「人づくり」に取り組んでいる。
人づくりは基本モラルから
◆職員と組合員の 繋がりが希薄に
――職員の人材育成はトップの考えによるところが大きいと言われますが、どのように考えていますか。
私は、水稲を中心に農業を営みながら、JAの非常勤理事として5期15年にわたり在任し、平成25年6月には代表理事組合長を拝命することになり、非常勤理事時代から「求められるJA職員」の育成、『人づくり』の必要性を感じていました。
かつての農協職員は、肥料などの注文をとるため、一軒一軒農家を訪問して顔を覚えてもらい、組合員と話をすることで信頼関係を築いてきました。それが自然に職員の教育になっていました。
それが近年、JAの広域合併や営農事業から信用・共済各事業へのシフト化などにより、職員の組合員に対する態度が横柄になったように感じていました。組合員は、相談したいことがあっても職員と対話する機会が薄れ、「農協は利用するところだけ利用すればいい」という農協離れの一因となり、このようなことが農協への不平不満につながっていると気づき、これはJA加賀の職場風土を変えなければだめだと思いました。
JAは一般企業のような不特定のお客さんと違って、組合員という利用者がそこにいるのですから、後は「どのようなメニューを提供し引き出すか」が重要なのです。
職員には、「日々の努力は勿論、業務知識をしっかり身に付けていただきたい」と理事会や委員会だけでなく、部長会・支店長会等機会があるごとに叱咤激励をしてきました。
組合長に就任させていただき、最初に始めたのは、言葉遣いや身だしなみなどを正すことです。人の話を聞いたり、何等かの表彰を受けたりする際は、右手を下におなかのところで手を組むのが基本ですが、みんなばらばらでした。また、トイレに入るときはトイレ用下足を使用し、用足し後には元通りにそろえる。これも基本です。
外部からの利用者が不揃いなスリッパを見てどのように思うでしょうか。
私自身が気づいたときは、自ら直しています。部下に対し「後で恨まれるから」と注意できない管理職もいますが、嫌われても、全体がよくなれば良いのです。
新採用職員は、自己紹介のときなど小さな声でぼそぼそと話しているとき、すぐに「もっと大きな声で元気に」と声をかけると、正常にできる。それが本人の満足感や達成感につながるのです。そのあと、廊下などで会い、元気に挨拶されますと、こちらも元気をもらい、とてもうれしいものです。
小さなことかもしれませんが、こうしたことはJAの職員である前に人間としての基本だと思います。基本ができていなくて、良い仕事できるわけがありません。
◆見ぬふりは駄目 「凡事徹底」を
ただ、大事なことは、職員を正すには、まず役員自ら変わることです。見て見ないふりをするのが一番よくない。JAグループの笑味ちゃんバッチですが、県や全国の会議などでも付けている人、いない人がばらばら。付けるのなら付ける、付けないのなら付けない。はっきりすべきです。
気づいている人もいると思いますが、誰も指摘しない。そこが問題です。こうした基本を自ら示さないと、職員が従うはずがありません。「まあ、いいだろう」、これが一番悪いことです。JAグループにおいては、組合員のことをしっかり考え、従来の職場風土から脱却しなければ、組織の存続が難しいと思います。
職員としてモラルが大事ということは、労働組合にも話しています。ボーナスや給料を要求するのもいいが、その前に大事なことは、組合員から褒められるようなことをすることです。そうすると自ずと成績が上がります。組合員から苦情を言われて給料を上げろというのでは虫がよすぎます。
最近では、労働組合も理解していただき、実践する姿勢が見えるようになり、また、こうした取り組みが徐々に成果につながっています。片付けや身だしなみは90%の職員が自然にできるよう身についたと思っています。全共連石川県本部主催のLA表彰式の檀上で、当JAの職員は前で手を合わせており、他JAには失礼ですが、しっかりとした態度で一層映えていました。
◆全職員が参加し 意識の共有図る
――JA加賀は、職場風土の刷新、人づくりに研修をうまく活用されているということですが、具体的にはどのようなことを取り組んでいますか。
人材育成のプロジェクトを立ち上げ、階層別研修の全職員受講をすすめました。階層別研修と言えば、該当階層に昇格した新任職員だけを受講させるものと思いがちですが、職場風土を変えるには、職員全員が同じ考えを学ぶことが大切です。スピード感が大事ですので、JA石川中央会の支援を得ながら、約半年の間に、管理職以下250人弱の全職員に受けてもらいました。
この際、自分を含め常勤役員が必ず研修開始の際に挨拶をし、可能な限り会場のうしろで研修を共有しました。また、初級職員が受講する際には、上席の管理職、監督職にも同席させ、研修で学んだことが上司・部下の関係で共有できるような工夫も行いました。中央会の研修が、JA職員の階層に合わせて体系的に作られていることが活きていると思います。
実際の研修を通じて分かったことですが、中央会の研修プログラムは、いわゆる座学ではなく、グループごとに島をつくり、ホワイトボードを使いながら受講者相互の討議で課題を解決することを繰り返します。グループの中で自由に意見を言う経験をし、それが多少ずれていてもグループで意見を受け止め、自らも考えのとりまとめを進めていける。研修自体の内容はもとより、こうしたごく簡単な動作が職員一人ひとりにクセとして定着すれば、職場風土は必ず変わっていくのではないか。このようなものとして、研修を通じた中央会の支援はとてもありがたく思っています。
今、来年度からの自己改革のスタートに向けて、研修を通じ職場全体で共有したものをベースに、プロジェクトとして人材育成基本方針のとりまとめを行っています。一人ひとりが考え、相互に議論する基本動作を日常の業務に取りこむための具体的な仕掛けも、実践に移したいと考えています。
また、2015年から能力主義人事制度を取り入れました。職員に意見を聞き、賛否の意見がありましたが思い切って導入しました。仮に恨まれても、組合員に信頼された農協の安泰が組織のトップである組合員の皆様に一番大事だと考え、決めさせていただきました。
◆直播でコスト減 担い手が拡大へ
――職員教育に人間としての基本が大事という思いを抱くきっかけは、なんでしょうか
大先輩の蒔絵師との出会いがあります。その人から「人間、全うなことをと思ったら途中でやめてはいかん、ごまかしはいかん、人のいやなことは率先して行なわなければいかん」と教えられました。道を歩いていて、たばこの吸い殻が落ちていた時、汚いなと思いながら通りすぎるのか、拾うのか、分かっていながら跨いで通るのかの違いです。
拾っておくと、後で通る人は不快な気をすることなく、歩いていけると思うことが人間としてのモラルです。そして何事にも一生懸命に取り組み、やろうと思ったら最後まで成し遂げることの大切さを教えられました。口やかましいからと、いま職員に嫌われても後々、その職員が、聞いていてよかったと思う。これが大切です。
人と人の出会いは大事にしなければいけません。組合員のみなさんは人生経験の豊富な人ばかりで、ありがたい宝なのです。こうした人が守ってきた農村の伝統や文化は、将来に伝えていかなければならないものが多くあります。TPP交渉の大筋合意によって今後、農業や農村のよさが破壊されないかと懸念しています。
――これからの日本の農業のあり方をどう考えますか。
農業については、当面の課題はコスト削減だと思います。2haで米を作っていますが、地元の仲間と一緒に加賀市で最初に鉄コーティング直播に取り組みました。水道工事の仕事と兼業だったので、手間をかけない米づくりが必要でした。3年間は減収でしたが、現在は普通に収量をあげています。今年度は地域全体で80haまで広がっていますが、県内の鉄コーティング種子の供給も引き受け、一部は他県にも販売しています。
これからの米価を考えると、コスト削減は避けられません。特に面積を拡大している若い担い手は、収穫時期をずらして規模拡大するなど努力しています。こうした担い手のためにも、直播を率先してやってきた甲斐があったと感じています。
日本の文化・伝統は米と共にあります。おいしい米が収穫される中山間地が、TPPで疲弊するとどうなるのでしょうか。急速な過疎化と共に国民の食の安全確保は厳しくなり、われわれが守るのだということを次世代へしっかりと伝えていかなければなりません。
そのことを国民に訴え、農業を駄目にして地方を疲弊させてはいけない、国内の農業保護が、無駄なお金の使い方ではないことを国民に理解してもらうことが大切です。価格だけでは日本の農業は外国にかないません。単にGDPの部分だけ追っかけていては、国内経済サイクルは空転すると共に一極集中化し、人口減少の歯止め解消には繋がらない筈です。
地域には地域にあった作物があるのです。生産者から消費者に安心して食していただく。食のサイクルを通じ若い人が農業者として確固たる生涯の生活設計が立てられ、農業に意欲を持つようにしなければならないと思っています。
◆ブランド品目に 「加賀九谷野菜」
――JA加賀ではどのような取り組みをしていますか。
いくつかの新しい取り組みを進めています。JA出資型農業生産法人、6次産業化、販売促進課の設置、相続税対策で相談窓口の設置などです。
販売では加賀市産農産物を「加賀九谷野菜」として商標登録しました。九谷焼にちなんだものですが、加賀温泉の女将さんグループとの連携や、東京でのフェアなどでPRしています。6次産業化は、味平かぼちゃ焼酎、「加賀九谷野菜」を原料としたドレッシングやアイスクリーム、クッキーなど地元の加工業者と連携し商品開発しています。
組合員の協力を得るには、JAも努力していることをわかってもらうことが大切です。そのためには、いままでの農業、農協のやり方に甘んじるのではなく、管理職及び一般職員がしっかりと前向きな姿勢で取り組み、仕事や職場の問題点を洗い直していかなければならないと考えています。
(写真)全員参加で職員の意識を変えた階層別研修
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