JAの活動:【JA全農の挑戦】
【JA全農の挑戦】新春座談会:輸出最前線 現地責任者の思い(1)おいしい戦略 生産者とともに2022年1月12日
国産の農畜産物がどのような評価を受けており、輸出の拡大にはどのような取り組みが必要か。最近、国内では少子化やコロナ禍で農畜産物の需要が減少しているものの、海外では米国や香港で、Eコマース向けの需要で牛肉やコメの輸出が伸びている。海外輸出の第一線で活躍するJA全農の6人の海外駐在員にオンラインで輸出の現状と課題を報告してもらった。 (司会進行は作山巧・明治大学農学部食料環境政策学科専任教授)
【出席者】
・全農インターナショナル香港(株)代表取締役社長 金築 道弘氏(香港)
・台湾全農インターナショナル(株)董事長 仮屋園 康人氏(台湾)
・全農インターナショナルアジア(株)代表取締役社長 祝部 智紀氏(シンガポール)
・全農インターナショナル欧州(株)取締役 廣木 正憲氏(英国)
・P&Z FINE FOODS LLC副社長 西村 乗氏(米国)
・全農(上海)貿易有限公司董事長 総経理辻野 智彦氏(上海)
【司会進行】
・明治大学農学部食料環境政策学科専任教授 作山 巧氏
和食人気で食材注目
作山 日本の農畜産物輸出は、昨年(2021年)1兆円を超えましたが、そのうち生鮮農畜産物は約1割と少なく、農業者の所得増大にどれだけつながっているかなど課題もあります。今日は輸出の第一線で活躍されている全農の海外拠点のみなさんに、輸出への取り組みや課題を存分に語っていただきたいと思います。まず輸出事業の現状ですが、現場の肌感覚として、日本からの輸出はなぜ伸びているのでしょうか。
祝部 智紀氏(シンガポール)
祝部 私の所管する東南アジア全般に言えることとして、日本が身近になったことが一番の要因です。すしやラーメン、焼き肉が食べられる店が増え、量販店に加えてデリバリーも普及し、日本の農畜産物が手に入りやすくなりました。
金築 香港は16年連続で日本からの農畜産物輸出先1位をキープしていますが、金額の上位は真珠、なまこ、たばこなどが占めており、日本の農家の田んぼや畑への貢献はあまり多くありません。一方で輸出が伸びたのは、香港の人にとって日本が身近な旅行先になったためです。2018年には230万人が日本に旅行しています。そのとき日本食を体験したことが影響しています。香港ではたくさんの商社、卸会社が展開しており、商品によっては価格競争にもなっています。
輸出による生産者の手取りを最大化するには「マーケットイン」が課題になります。青果物を、対象国の小売店で売りやすいように小分けしたり、消費者が取りやすいサイズで分別をしたりしています。あとは産地リレーです。甘藷(かんしょ)では宮崎から岩手県までの産地をつなぎ、日本産の甘藷が売り場から消えない取り組みをしてきました。
仮屋園 台湾は距離的にも歴史的にも近い日本に親近感を持っています。アニメやドラマなど日本のテレビ番組もよく見られていて、日本人より日本のアイドルに詳しい人もいるくらいです。日本の農畜産物には上質というイメージがあります。
辻野 中国に輸出できる農産物は、お米や加工食品等に限られていますが、ホタテ、サケ・マス、またアルコール類・清涼飲料など、近年は水産物、酒類等も増加してきています。コロナ禍の前には中国から日本に多数の旅行者が訪れ、日本ファンが増えました。中国が輸入している農林水産物の46%は加工食品です。私たちは飲料、乾麺、お菓子なども扱っていますが、まだまだ取り扱いは少ない。ボリュームゾーンに何を投入するかが課題です。
廣木 英国は欧州の中でも肥満率が高く、ヘルシーのイメージがある日本食がブームになっています。日本から取り寄せた和牛や米を使った料理を出すハイエンドな日本食レストランと、現地やアジア系の人たちが経営するカジュアルな日本食レストランがあります。持ち帰りすしやカツカレーが流行っています。JAグループとして売っている主なものは和牛とお米です。野菜、果実にも需要がありますが、鮮度管理や運賃に課題があります。
和牛が家庭にも浸透
西村 乗氏(米国)
西村 私は西海岸のロサンゼルスにいます。こちらに輸出されている日本の農産物は品目が限られますが、近年和牛を中心に牛肉が輸出増をけん引しています。コロナ禍の前はレストランでしか食べられない和牛でしたが、コロナで店が閉まり旅行もできない状態が続き、矢継ぎ早に新しいEコマースの会社が立ち上がり家庭消費の需要が増えました。そこに飲食店も復活してきたので、私たちの会社からもどんどん出荷しています。
食べた人がSNSを通じて「和牛体験」を動画にアップすると、オーダーが目に見えて増えます。食べ方についても私たちは「すき焼きには卵」と思っていますが、ヒスパニックのたれがおいしかったりするなど、日本産とローカライズ(現地の好みに合わせること)のバランスがポイントのようです。
作山 現場ならではの報告を興味深く聞かせていただきました。次に直面する課題や問題点についてですが、国際物流の混乱、日本の品種流出と海外との競合、県ごとにいくかオールジャパンでいくか、国内産地に求めたいことなど、こういうところがうまくいかない、ここが改善されればもっと伸びるといった話をお願いします。
祝部 東南アジアは農産物の産地でもあるため、輸入に関するライセンス、規制は厳しいものがあります。価格帯も日本よりずいぶん安い。その中で日本産を売っていくには商品のクオリティー、現地産では手に入らない特徴的な商品や付加価値が不可欠です。現地ならではの商習慣もあるので、ローカル顧客へのネットワークにどうアプローチするかも課題です。
流通網の整備がカギ
金築 道弘氏(香港)
金築 香港は先進地域ですがコールドチェーンは整備ができておらず、高温多湿なので食品がよく傷みます。コールドチェーン構築が課題です。小規模ですが販売店まではコールドチェーンが切れないように物流センターを立ち上げました。
私たちが求めるマーケットに日本産品がフィットしないところも出てきています。嗜好(しこう)の問題ですが、例えばリンゴでは、日本と違って大きい規格より、やや小ぶりなものが好まれる傾向があります。生産者、部会、JAなどの各段階に輸出のメリットを訴えながら、どう連携していくかが課題です。
仮屋園 船が着いてから販売できるまで検疫だけで1~2カ月かかってしまうことがあります。これでは賞味期限があるなか、販売チャンスを逃しかねません。台湾では認められていない農薬が検出されるとすべて破棄ですから、桃についた虫も産地側で、一つひとつ手作業で落とさねばなりません。「日本のものは高級で高い」というイメージから高い品質が求められ、イチゴの色が少し変わっているだけで「これじゃ売れない」と言われてしまいます。
辻野 智彦氏(上海)
辻野 私は、中国は2回目の駐在(17年前から11年前まで)ですが、違う国に来たようです。所得水準と生活の質が上がり、食品の質も上がっています。お米だと、日本米は2キロ200元(約3400円)で、こちらの米の値段の5倍から10倍です。輸入品と国産品の価格差をどう説明し、あるいは埋めていくか。また、「国潮」と呼ばれる国産品回帰の流れがあります。「これまで中国産は品質が今一つだったので海外産を買ったが、これからは国産を買おう」という傾向が若者を中心に顕著になり、ファッション、自動車から文化にまで及んでいます。
この流れは変わらないと考えられるので、最高級品は日本から輸出し、ミドル、アッパーミドル向けにはPB(プライべートブランド)や、加工品の場合は現地OEMで全農・JAグループが原料供給していくといった戦略も必要ではないでしょうか。
廣木 欧州における和牛輸出の課題は二つあります。一つは飲食店など業務用が大半で小売り、EC向けが少ないことです。コロナでEコマース向けの和牛需要も増加しましたが、北米、アジアに比べるとまだまだ小さい。ただ、伸びしろがあるので、量販店、Eコマースにも刺さる販売促進を強化します。もう一つは、ハイエンドなレストラン、富裕層向けから中間層まで広げていくことで、比較的低価格のセカンダリーカット(高級部位以外の牛肉)の販促が有効でしょう。
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