JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】連載特集に当たって(一社)農協協会会長 村上光雄2024年6月28日
地球が沸騰化の時代に突入するなか、世界では各地で対立と混迷が深まっている。混迷する世界情勢と日本の未来を見越して問われているのは「どうするのか? この国のかたち」だ。本シリーズでは食料、農業、農村問題はもちろん、政治のあるべき姿やさまざまな政策の方向まで、幅広い視野から有識者らに発信してもらう。今回はシリーズ開始に当たって課題を提起する。
改正食料・農業・農村基本法が成立しました。迷走する政治資金規正法改正審議の陰に隠れて国民的な関心も盛り上がりもなく国会を通過しました。消費者は度重なる食料品価格の引き上げに悲鳴をあげ、農業者は生産資材価格の高騰に苦しみ続けているのにもかかわらず、であります。
それではなぜ食と農という国民一人一人にとって最も重要な問題がおろそかにされたのか、また検討審議される中で私の気づいたこと、そして思いを整理し、これからの基本計画作成に反映されることを願うところであります。
まず政府は最初から抜本的な改正など考えていなかったということです。ロシアのウクライナ侵攻による食料安全保障議論の高まりと自民党からの突き上げにより動かざるを得なくなって、既定路線の延長線上での一部改正しか頭になかったということです。その点戦後農政をしっかりと総括し、様変わりした農業農村、そして環境問題など新たな課題に対応するための抜本的な改正を期待していた私たちとは大きな齟齬が生じたということであります。
二つには自給率の問題であります。私たちは別に完全自給を要望している訳ではなく、独立国として、また有事に備えてせめて自給率を50%にはしておくべきだと主張しているのです。前法下で45%を掲げ38%に落ち込んでいることへの何の検証もすることもなく新たな指標を検討することは、欺輛とごまかしとのそしりを受けても仕方のない政策であります。自給率のさらなる低下を容認することは我が国が国土防衛のみならず、国民食料まで米国に依存する属国になることであり、独立国のかたちとしてこのままでいいのか猛省すべきであります。
村上光雄会長
三つ目は農業生産基盤の強化についてでありますが、これではとても生産現場では元気が出ません。「有事に対しては平時の対応が必要である」と各学識者から指摘があるのに何ら新しい取り組みは見えない。むしろ全ての補助金に環境との調和が必須条件となり窓口が狭まることが懸念されます。耕作放棄地の拡大を阻止することが喫緊の課題でもあるのに出口は見いだせず、このまま推移すると中山問地域の農地のほとんどが獣の住み家と化すことは明白であります。
四つ目は担い手の問題であります。多様な担い手が認められたことは一歩前進でありますが、審議の中で強固な抵抗があったことが気にかかります。企業参入、企業的経営も否定はしませんが米国型の外国人労働者に依存した経営には疑問を感じますし、ましてや全ての農地をカバーできるわけがありません。また新規就農者確保も重要ではありますが、むしろ現在現場で悪戦苦闘している担い手に対して支援していくことがより有効であり先決されるべきであります。
五つ目は価格転嫁の問題です。生産資材価格の高騰を受け、この度の目玉ともなり取り上げられたことは成果であったと思います。しかし、その一方で振り回された感がします。そもそも価格転嫁は必要ではありますが、相手のあることであり簡単にはいきません。現に法制化も検討されているが複雑で多くのエネルギーとコストのかかることが予測されます。となるとやはり生産者と消費者の相互理解に立ち返らざるを得ないように思います。普段の交流が重要でありますし、どうしても埋まらない溝は国が直接支払いするのが筋であります。
最後に今回の重要な柱である食料安全保障について。いろいろ議論される中で輸出を振興し有事には国内向けに切り替えればよいとされています。しかし、よく考えてみるとこれは輸出国の論理であり、大量の輸入国である我が国が多少輸出が増えたからといって言えることではなく、まったくの詭弁であります。まずは我が国の自給率を少しでも高めることであります。
以上私の感じたこと思いのままに書いてみました。そして私たちの農業そして地域を守っていくにはJAを中心に結集するしかないことを確信いたしました。先日もJAの支店で農業用資材廃棄物回収があり使用済みの肥料農薬袋そしてビニールなどを積んだ軽トラが列をなしていましたが、職員がテキパキと対応しスムーズに処理されました。広域合併をしましたが支店を中心にして農業と環境、地域を守る活動を展開し頑張っています。
そして第30回JA全国大会に向けての組織協議も始まりました。地域に根差したJAとしてJA綱領にあるように「地域の農業を振興し、我が国の食と緑と水を守ろう」の気概をもって大会議案作成に取り組んでいただくことを切望します。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日