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【検証・改正畜安法3年(中)】禍根残す「まず改革ありき」 法令遵守へ冷静な議論こそ 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年5月24日

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改正畜安法から3年。課題が山積している。この間、災害やコロナ禍もあり生乳需給は関係者一丸の対応が迫られた。流通自由化を促す改正畜安法とは逆方向だ。「まず改革ありき」は混乱招く。法令遵守へ実態に即した冷静な議論こそ問われる。

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安倍首相は「生産者が自由な経営を可能に」

2017年1月20日の第193通常国会冒頭、首相の安倍晋三は「農政改革を一気呵成に進める」と語気を強めた。そして半世紀ぶりの酪農制度改革を具体的に挙げた。「牛乳・乳製品流通で事実上、農協経由に限定していた現行の補給金制度を抜本的に見直し、生産者が自由な経営を可能にする」と。

自由は一見、良いことに映る。だが2時間で変質し劣化する生乳の特性を踏まえれば、かえって需給の混乱と裏表だった。自由と混乱は一体で進み、課題を抱えて改正畜安法として〝結実〟していく。それは酪農家、乳業メーカー、消費者それぞれにとって多くの課題を残した。

ここに至る前段は1年前、2016年にある。一連の家庭用バター不足など身近な問題がマスコミで取り上げ、酪農制度、特に生乳を一元集荷する指定団体の存在とその在り方が俎上に上る。政府の規制改革会議(当時)の下にある農業ワーキンググループ(農業WG)でバター需給、酪農実態など数度の関係者ヒアリングを経て、同年3月、「現行指定団体制度の廃止を含む」提言を取りまとめた。政府は規制改革の答申を踏まえ6月、規制改革実施計画を閣議決定。そこには「指定団体制度の是非や現行の補給金の交付対象の在り方を含めた抜本的な改革について検討し、(秋までに)結論を得る」と明記された。

奥原次官は「半世紀経った法律は廃止」

当時、農水省は「官邸シフト」が整っていた。
改革派に転じTPP推進、全中の農協法外しを進めた自民農林幹部・西川公也が農相に就き、官僚トップの事務次官には経営局長として農協改革の陣頭指揮を執った異能の官僚・奥原正明が据わった。全農改革を牽引した自民農林部会長だった小泉進次郎はある会合で「リオ五輪で女子バドミントンの奥原選手がメダルを取った。この時、私は同じ名前の農水次官を思い浮かべた。そのくらい農業漬けの日々を送っている」と明かした。逆に言えば〈改革〉の一点で小泉と奥原の深い関係を示唆したものだ。

奥原は周囲に「半世紀も経った時代遅れの法律は全て廃止だ」と漏らしていた。その中には半世紀以上を経てなお残る加工原料乳補給金の酪農不足払い制度、種子法などがあった。奥原は農協、金融制度のプロで、コメ流通にも精通していた。だが畜酪は素人だ。しかし合理的な頭脳の持ち主は、半世紀を超す〈暫定法〉など論外だと考えていたはずだ。想定したのは二つ。「単線型ではなく複線型にして、適正な競争と多様な取引を実施する」「農業者に農協利用を強制する仕組みは是正する」。逆に言えば、酪農の素人だからこそ思い切った改革ができたとも言える。酪農・乳業問題に精通している農水技官らは、生乳需給安定へ改革の先の混乱をどう最小限にするかを考えていた。

拙速改革は「逆にバター不足招く」

指定団体制度の問題点が浮上する中で、中央酪農会議は2016年8月、在京マスコミを招き指定団体の役割と重要性を説く説明会を実施した。この時の質疑は、当時の状況をよく表わすので再現しよう。

農協改革急先鋒の日本経済新聞の担当記者がこう聞いた。「バター不足は補給金制度に起因するとの指摘があります。それと絡めて現行指定団体制度廃止の意見も規制改革会議から出ていますがどう考えますか」。これに対し筆者はこう問うた。「指定団体は用途別需給調整を担う。一元集荷を廃止すれば、飲用牛乳シフトになり、かえって家庭用バター不足を招きかねないのではないか」と。見解の相違と言えばそれまでだが、日経は眼前のバター不足をどう解消するのかに注力していた。中酪事務局からは指定団体の役割を強調し「指定団体の弱体化はバター不足を逆に招きかねないとの指摘はその通りだ」と応じた。

生乳の用途別需給は複雑な仕組みだ。バターといっても大容量の業務用バターから小口の家庭用まで幾通りもある。製造ラインも全く違う。バター内の過不足に臨機応変に対応できない。大手乳業は大量の原料乳を扱うため業務用が大半だ。だが後にコロナ禍で外食、ホテル需要が激減すると、雪印メグミルクの根釧の主幹・磯分内工場で今春から家庭用バター製造ラインを整えるなど、需要に応じた対応も進む。

いずれにしろ、ボタンの掛け違い、認識の差は拙速で急進的な改革に勢いをつけ、現行指定団体制度廃止、生乳流通自由化へと大きく舵を切ることになる。

畜産部長は「指定団体が夢に」

よく政治のテーマになるのがコメと畜酪だ。野菜、花などは行政関与があまりなく、需給が反映される仕組みが定着していた。だがコメと畜酪は、需給が安定しなく政治介入が常だ。

農水省の畜酪行政は生産局長→畜産部長→食肉、牛乳・乳製品など担当課長のラインで進む。要は畜産部長だ。重要ポストで関係業界や政治家との調整役を担う。キャリア、技官が交互に務めてきた。全農改革と共に大激論となった生乳制度改革当時、枝元真徹生産局長(当時)は「畜産部長は団体をよく知っている技官の方が円滑に進む」と言っていた。

担当したのは大野高志だ。京都大学畜産学科出身。語学に堪能で人当たりも良く人望があった。畜酪行政は食肉派と牛乳派に分かれる。畜産部長は技官の場合、畜産行政に詳しい食肉派が充てられた。だが、政治問題化するのは乳価や生産基盤など酪農問題が多く、実質は酪農関係に時間を割かれる。個室となっている畜産部長室を訪ねると大野はよくこう言っていた。「生乳制度改革はなぜこうも政治問題化したんですかね。先日も指定団体が夢に出てきた」。そしてこうも付け加えた。「奥原次官は神経質になっている。中でも農協利用の強制がないよう念を押された」と。農協利用の強制、つまり指定団体への生乳無条件委託、一元集荷の是正に照準を合わせていた。その理屈から導き出される解は「現行指定団体制度の廃止、抜本見直し」となる。規制改革会議の狙いと一致する。

畜産業界と密接な食肉派の大野は退官後、日本食肉格付協会の会長に就く。「政治とカネ」を巡り国会でも議論となった鶏卵大手アキタフーズの会食問題でも名前が出る。

技官は「指定団体主流は変化ない」

改悪ともされる改正畜安法。当時、専門家からは「畜産経営安定法ではなく、経営不安定法だ」とも揶揄された。問題は、指定団体機能が弱体化し、生乳全体の臨機応変な需給調整がうまくいかなくなる懸念だ。結果的にプール乳価下がり酪農家全体の不利益に結び付く。

このまま、現行指定団体制度が廃止されれば、生乳需給は混乱を極めかねない。当時の牛乳・乳製品課調整官など技官らに見通しを聞いた。すると「官邸の指示は絶対だ。だが需給安定は欠かせない。制度改正に伴い指定団体の集乳率は下がるだろうが、数ポイント、9割前後だろう。指定団体主流の流通形態に変化はない」と見立てた。

本筋とは違う「団体分割」言及

改正畜安法施行から3年が過ぎた。乳業、生産者団体双方から評価が低い。規制改革推進会議は生乳制度改革のフォローアップを進めた。新規参入など規制改革が不十分として、強大な力を持つ指定団体のホクレン分割などにも言及した。あの全農改革時の改革が実行できなければ〈第2全農の設立〉などと同じ暴論だ。制度改悪は生乳需給混乱を招き、まさに本末転倒の暴論だ。

ただ組織分割の言及は本筋の議論とは違う。ここは冷静に、改正畜安法の実態を分析し、是正点があれば見直すべきだ。慎むべきは「ホクレン分割」のひとり歩きだ。問題は生乳と牛乳乳製品の需給安定と酪農家のメリット拡大という法改正の趣旨に沿った運用がされているかだ。法令遵守こそ問われなければならない。(次回は6月1日付)

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