【クローズアップ:夏場の生乳「異変」】コロナと猛暑で不透明 道外移出は下方修正 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年8月2日
最需要期を迎えた生乳需給に「異変」が起きている。Jミルク生乳需給見通し最新版(7月30日)は、夏場の生乳道外移出を下方修正した。結果、道内の乳製品在庫は記録的に増え、今後の政治問題になりかねない。コロナ禍と猛暑が、生乳需給の先行きを一段と不透明にしている形だ。
続くコロナ禍と需要減
国や関係業界の酪農生産基盤強化策が功を奏し、今のところ全国的に生乳生産は増産基調が続く。
ただ、酪農も「豊作を素直に喜べない」コメと同様に増産が所得増には必ずしも結び付かない事態に追い込まれかねない。
デルタ株の猛威でコロナ禍の先行きが見通せず、緊急事態宣言は大消費地に拡大し外食など業務用需要の回復は進まない。道内に乳製品基幹工場をいくつも持つよつ葉乳業は「乳製品在庫は限界を迎えつつある。特に脱脂粉乳が動かない」と危機感を募らせる。最大手・明治は「猛暑とコロナで、今後の原料調達と用途別需要が極めて読みにくい」と見る。
都府県増産の余波
日本酪農の課題だった都府県の生産基盤強化が少しずつ進んできた。成果は生乳生産の減少から増産という反転攻勢で表れてきた。
Jミルクの最新需給見通しは全国の生乳生産は756万トンで前年度比1.7%増。前回(5月28日)752万トンの予測より0.5ポイント上昇した。都府県は329万トンで、330万トン超えも目前に迫ってきた。
その結果、国内の生乳需給構図に変化が生じてきた。これまでは地盤沈下に歯止めがかからない都府県の生乳需要を大量の道産生乳が賄う。輸送能力の関係で限界点に近づき、年間で需給逼迫がピークとなる9月の対応が問題だった。
それが今回は、都府県の増産で、これまでのような北海道からの生乳移入が必要なくなったのだ。夏場の生乳「異変」といっていい。
道外移出7、8月は記録的減
生乳道外移出見通しは、夏場の7月から毎月6万トンを超えていた前年までとは様変わりした。最夏の7,8月は実に4万トンまで縮小してしまった。
◎表・道外生乳移出(7月30日見通し)
※単位千トン 前年同期比
・第1四半期 115 100.6
・第2四半期 161 86.3
※月別内訳
7月 45 73.0
8月 48 80.0
9月 67 102.7
・第3四半期 142 102.0
・第4半期 106 102.7
※年度計 524 96.4
昨年は、7月から10月まで限界に近い毎月6万トン以上の道外移出が迫られ、一時期、乳業メーカーは首都圏などの食品スーパーなどで出荷制限などを行った。「牛乳はお一人様2本まで」の張り紙が貼られ、夕方にはなくなるケースもあった。
Jミルクは今夏の「異変」を「昨年は需要に応じられないチャンスロスが出た。今年は実需と供給をしっかり合わせてほしい」と呼びかける。
今年の夏場の需給逼迫は9月の道外移出6万7000トンさえ乗り切れば、数字的には応じられる。6万7000トンのうち、広域需給調整で全農取り扱い分が6万トン、残り7000トン分は指定生乳生産者団体以外と見られる。全農対応もこれまで以上に輸送力が拡大しており、大型台風などよほどの気象災害がない限りはそれほど支障がない見通しだ。
道内で乳製品在庫累積
都府県の生産回復が道外生乳移出を減らす。これ自体は通常なら結構のことだ。だが、問題はコロナ禍で用途別需給、特に外食など業務用需要が停滞したままであることが大きい。
生乳が道外へ出ていかなければ、それだけ保存の利く乳製品処理が増える。Jミルクの最新予測では、脱粉の年度末在庫は8カ月分、10万トンを超え、前年同期比12.7%増とさらに過剰の深刻度が増した。
国は飼料代替の支援、ホクレンは独自に1万トン規模の新規需要開拓を行っているが、それらを差し引いても、このままでは年度末には8カ月分、9万トンを超す在庫が残る。在庫増は今後の酪農家の乳価、生産に影響を及ぼしかねない。
猛暑で生産急ブレーキも
さらに今後の需給を不透明にしているのが、列島を覆う猛暑だ。冷涼な北海道も猛暑で今後、生乳増産ペースが落ち、雨不足で2番牧草の出来にも響く。関東生乳販連など都府県では7月下旬以降の減産の恐れも出ている。一方で猛暑に伴いアイスクリーム、氷菓などの売れ行きは良く、原料の脱粉需要への期待も出てきた。これも今夏の予測不能な生乳「異変」である。
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