農業生産量は増えるが飢餓はなくならない -OECD-FAOの今後10年の見通し2019年7月16日
OECDと国連食糧農業機関(FAO)は、7月8日、年次報告書「OECD?FAO農業アウトルック2019-28」を公表した。農作物需要は、今後10年間に世界全体で15%増加すると予測されるが、農業生産性の伸びのペースは需要の増加ペースより遅い。このため主要農産物の価格を現状維持または低くするための政策により、価格は低く維持されると予測されるが、多くの不確定要素が存在する。
本年版の「農業アウトルック」には、各国・地域・世界レベルで、農水産物市場の今後10年の見通しが収録されている。
ホセ・グラツィアーノ・ダ・シルバFAO長官とアンヘル・グリアOECD事務総長は、同報告書の序文で「世界の農業は、小規模の自給自足的農場から大規模な多国籍企業が経営する農場まで存在し、非常に多様な産業へと変貌した。現在の農業部門は、食料供給に加えて、国の環境の重要な保護者としての役割も担っており、再生可能エネルギーの生産者でもある」と述べ、今日の農業の位置づけと役割を評価している。
同アウトルックによると、技術革新に後押しされて単位面積あたり収量が改善するため、世界的に農地の利用面積が総じて変化しないにもかかわらず、生産量は増加すると予測している。
こうした中で、新たな不確定要素が農業部門が直面するリスクとして出現している。その中には貿易摩擦による混乱、穀物や家畜の病気の拡散、抗生物質への耐性の高まり、新たな植物育種技術への規制対応、極端な気候現象の頻発などが挙げられる。
また、健康と持続可能性という観点から食の選好が変化していることや、世界的に広がる肥満への政策対応も、不確定要素に含まれる。
世界全体で、食用穀物の需要が、今回のアウトルックの予測期間中に約1億5000万t増加(13%増)すると見られており、中でも米と小麦がその増加の大半を占める。主要作物の食品用途が増加するという予測の背景にある最も重大な要因は、人口増加。人口増加ペースが最も速いと予測されるのはサハラ以南のアフリカと南アジアとされる。
マキシモ・トレロFAO経済社会開発担当次長は「残念ながら、最も需要が高い地域ほど所得の伸び率が鈍く、その結果、栄養状態もごくわずかしか改善しない。本書の調査結果によると、総じて栄養不良の人は減少するが、現在の改善率では、2030年までに飢餓をなくすという目標は、到底達成できない」と述べている。
また、ケン・アッシュOECD貿易農業局長は、「貿易が世界の食料安全保障の鍵を握っていることは明らかである。人口が急増している地域で必ずしも食料生産を持続的に増加させられるわけではなく、あらゆる国の政府が開放された透明で予測可能な農業食料市場を支援することが不可欠」と述べている。
同アウトルックによると、加工食品への需要が急速に都市化する多くの低所得国、中所得国でさらに高まることを反映して、砂糖と植物油の消費が増えると予測する。
また、畜産部門が伝統的な生産方式から商業ベースの生産方式へと変化する中で、飼料の需要が家畜生産のペースを上回ると予測される一方、バイオ燃料生産のために農作物を飼料として利用することが主として途上国で増加すると予測する。
農水産物の貿易は、今後10年にわたり毎年約1.3%増加するとみられるが、この増加率は、世界的な輸入需要の伸びが鈍化する見込みから、過去10年の平均3.3%よりは鈍くなる。輸出面では、南米と欧州による海外市場への輸出が増加すると予測している。
※報告書(英文)はOECD-FAO Agricultural Outlook 2019-2028から入手できる。
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