コスト反映した価格形成の枠組みづくりも課題 食料安保強化へ 農水省2022年9月12日
岸田文雄首相が基本法の見直しに向けた検討を開始するよう指示した9月9日の政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部では、野村農相が新しい首相が掲げる資本主義の下での今後の検討課題について明らかにした。
「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」は第二次安倍政権発足で設置された「農林水産業・地域の活力創造本部」を6月の閣議決定で改組したもの。改組の目的として農林水産業の成長産業化に加えて食料安定供給の観点を加えた。
9日の会合で野村農相は、食料安定供給の基盤強化に向けた今後の検討課題として、①スマート技術等の活用による担い手の育成、②輸出促進、③農林水産業のグリーン化の推進の3本柱に加えて、地球温暖化やロシアのウクライナ侵攻による生産資材の調達の不安的化など食料安全保障のリスクが高まっているとして、④食料安全保障の強化を加えた4本柱を強調した。
スマート農業では、機械導入にともなう多額の投資に備えた法人資本の充実、労働力不足が深刻化するなかでアウトソーシングする際の受け手の育成も課題としている。
輸出促進では海外の規制とニーズに対応した輸出産地の育成と知的財産保護の仕組みづくりを挙げる。
みどり戦略に基づく農業のグリーン化では下水汚泥・堆肥等の未利用資源の利用拡大を挙げる。これについては本部会合で齊藤国交相が下水汚泥の肥料利用促進について話した。持続可能な食料システムの確立に向け、下水汚泥を肥料として活用することは肥料原料が高騰するなかで「大変有意義」として「肥料の国産化と肥料価格の抑制につなげるよう農水省と緊密に連携していく」と述べた。
国交省によれば、下水汚泥はわが国の年間リン需要量約30万tの1~2割相当を含有しているという。一方、下水汚泥の肥料利用は約1割にとどまっている。齊藤国交相は「スピード感をもって取り組んでいきたい」と話した。
食料安全保障の強化では、小麦・大豆・飼料作物の輸入依存からの脱却など、国産化を進める。また、国産原材料の安定調達のための食品産業と産地の提携、生産・流通コストを反映した価格形成を促すための枠組みづくり、食品へのアクセスが困難な社会的弱者への対応も課題としている。
この4本柱について岸田首相は「4本柱を成長のエンジンに転換し、社会課題を解決しつつ食料安全保障の強化と農林水産業の持続可能な成長を推進していくという方針のもとで農林水産政策を大きく転換していく」としたうえで、農政の根幹である基本法について「法改正を見据え、関係閣僚連携のもと、総合的な検証を行い見直しを進めてほしい」と指示した。
野村農相はこれを受けて、基本法について予断を持たず検証するとともに幅広く意見を聞いて国民的なコンセンサスの形成に努めることをなどを指示した。とくに各界各層から幅広く意見を聞き、国民合意を形成することを重視した。食料と農業問題は農業者だけの問題ではなく、国民全体の問題だ。とくに食料安保強化の課題として、生産コストの上昇を価格転嫁する仕組みは国民合意が鍵を握るといえる。それが食料自給率の向上にもつながる。
その他、今後の多様な担い手の姿や、国民の農業参加なども新たな基本法の論点になる。
今後の検討の方法やスケジュールを農水省は近く明らかにするとしている。一方、自民党の食料安全保障に関する検討委員会の森山裕委員長は農水省内で年末まで検証作業を進め、来年から食料・農業・農村基本政策審議会に諮問して議論、その取りまとめを受けて法改正作業に入り、2024年の通常国会で改正する意向を示している。
農水省は「20年で何が変わったか」をまずは検証したいとする。
この20年で人口減少は明らかとなり国内市場が縮小するとともに、農業者も減少・高齢化が進んだ。世界的に食料情勢が変化し食料安全保障のリスクが高まっている。1990年代、日本は世界一の食料純輸入国だったが、今はそれが中国となっている。さらにロシアによるウクライナ侵攻など情勢もある。
そのほか、明確になっている気候変動の影響と対迫られる応、その一方で海外での購買力が高まって海外市場が拡大したという状況もある。「20年前の当時の想像を超えるレベルで変わってきている。そこをふまえて検証していくことからスタートしたい」と農水省担当者は話す。
野村農相は新たな基本法について「来年中には作り上げる」と9日の記者会見で話した。
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