農政 解説・提言詳細

2017.10.31 
農の現場から、選挙結果を読む一覧へ

星 寛治(農民作家)

 抜き打ち的な解散によって実施された衆議院選挙は、小池新党と民進党の実質的な解党によって野党が乱立し、与党が圧勝する結果となった。このことを農業の現場ではどう見ているのか、山形県の農民作家・星寛治氏に寄稿していただいた。

◆地方には馴染まない小池流発想

農民作家 星寛治氏

 10月中下旬、季節外れの台風が相次いで来襲し、列島各地に深甚な被害をもたらした。東北の稲の作柄は、長雨と日照不足の影響で登熟が大幅に遅れ、収量、品質共に不本意な農家の表情は冴えない。
 また、リンゴなどの果樹は、正月の湿った大雪で潰され受難のスタートであった。さらに秋の天候不順で熟度が進まず、風味も物足らない。幸い台風の直撃は免れたが、自然を相手の営みの宿命を痛感した年でもある。
 漸く里山に紅葉が下りてきた頃、大義なき抜き打ち解散で衆議院選挙が行われた。公示直前での野党の離合集散が、与党に漁夫の利を与え、自民党の圧勝をもたらした。小池劇場の幻想に惑わされた民進党の前原代表の希望の党への解党的合流の判断ミスが、歴史を逆流させる失態を招いた。合流の前提となる踏み絵によって、小池新党の本質が自民党の補完勢力にしか過ぎないことが明らかになり、希望の党は急激に失速していった。しかも候補者の転身について、支持者との相談もないままの駆け込みが不信を招いた。
 小池流の"三都物語"のような大都市中心の発想は、地方には馴染まず、東北は比例区を含めて全滅の憂目に会った。すでに民進党を基軸に形成されつつあった野党連合で臨めば、全県で勝利する可能性があり、その態勢はすでにできていた。それが希望の党の合流劇で一気に瓦解した。

(写真)星 寛治 氏

◆混沌のなか光明灯した立憲民主党

 加えて山形県区では、農協政治連盟が自民候補の推薦を決めたことが決定打になった。安倍政権が、農協を岩盤と称し、そこに風穴を開けるべく農協法を改め、全中を社団法人化し、さらに全農の株式会社化を目論んでいる。いわば農協解体を進める政権与党を、農政連がなぜ支援するのか理解に苦しむ。
 もう一つ、若年世代の保守化という意外な現象が浮かび上がった。若者は改革の先兵という従来のイメージが消え、アベノミクスの雇用創出と就業機会の改善という現状に自足しているのであろうか。あるいは、選挙権の低年化に対応する政治学習の機会が希薄なためだろうか。
 そうした想定を超える混沌の中で、枝野氏の立憲民主党が躍進したことが、せめてもの光明を灯した。その要因は、理念の首尾一貫した解り易さと、立ち位置の明確さである。市民の直面する生活課題からボトムアップする政治をめざす斬新さが共感を呼んだ。いわば、永田町の論理からの脱却である。リベラルの旗印は、かつての革新勢力の回生ではなく、厚い中道勢力の形成のようだ。中産階層や、農林漁業などの振興に力点を置き、地方組織の充実を果たせば、東北、北海道、九州、信越などのシンパシーは獲得できるのではないか。
 ただもう一つ、現行の小選挙区制度の問題がある。3割の集票で7割の議席を占める不条理を打開するには、新たな中選挙区制度を創出し、死票を極力少なくすることが必要だ。

◆トランプ主義べったりでいいのか

 トランプ大統領の来日が決まったが、次世代までの社会現象を考えると、日米同盟への全面依存と、トランプ主義にべったりでいいのか、問い直す場面だと思う。
 パリ協定からの離脱を見ても、地球温暖化による自滅的なリスクに頬かむりして、年々激化するハリケーンや台風の被害にどう対処するのか。また、オバマケア―の福祉保健政策を全否定し、富裕層と近親者を優遇する独善的な政治運営に綻びが見える。北朝鮮の金正恩氏と同じ体質の人間が、核のボタンを握る人類の危機は測り知れない。唯一の被爆国のリーダーは、誰よりも冷静で理性的に、暴発を抑制する役割を担ってもらいたい。
 併せて、改憲勢力の圧勝によって、拙速な推進と発議がなされ、とりわけ9条の改正を梃子に軍拡を推進することになれば、戦後70年かけて築いてきた平和国家の礎が崩れていく心配がある。

◆協同組合は地域、農村の揺るぎないインフラ

 私たちは、世界を被う右傾化と国家主義の流れにあっても、自立と互助を基調とする協同組合主義に未来を託したい。資本主義も社会主義も乗り超える共生の沃野が、そこに拓けている。
 近年、国連は、「国際協同組合年」「国際家族農業年」「国際土壌年」と続く道標を掲げ、人類史の方向性を示した。また、ユネスコは、協同組合を「無形文化遺産」に認定した。市場原理主義一辺倒の新自由主義と、多国籍企業に牛耳られるグローバリズムに呑み込まれる状況から脱却し、地域主権と住民自立を促す新しいローカリズムに希望を託したい。
 上杉鷹山の藩政改革の歴史に学んだ「置賜自給圏構想」が、その砦である。共同代表の渡部務氏は、JA山形おきたまの役員を四半世紀も担った有機農民であり、また菅野芳秀氏は、長井レインボープランの中心的なリーダーである。食と農と、エネルギーの自給を基軸に、持続する地域農村社会の経済、文化、福祉の充実をめざす。その推進軸に生協、農協、行政、市民の連隊がある。
 まさに協同組合は、地域、農村の揺るぎないインフラである。政治は、そうした地域自治をしっかり支える責務がある。

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