農政:トランプの世界戦略と日本の進路
トランプ農政・小規模農家に暗雲 熊本学園大学教授 佐藤加寿子氏【トランプの世界戦略と日本の進路】2025年5月1日
「トランプの世界戦略と日本の進路」シリーズ、今回は熊本学園大学教授の佐藤加寿子氏に寄稿してもらった。佐藤氏は、地産地消や小規模農家支援策の打ち切りが地域の食と農を根底から揺るがすとし、トランプ農政の危うさを指摘している。
熊本学園大学教授 佐藤加寿子氏
2回目のトランプ政権がスタートして連邦政府の予算支出が部分的に凍結された。農業予算も例外ではない。予算凍結は生産現場に大きな混乱をもたらしているようだ。
凍結された施策の中でも注目を集めているもののひとつが「気候スマート作物のためのパートナーシップ・プログラム」(以下では「気候スマート・プログラム」)である。これはバイデン政権下の2022年に開始された施策で、温室効果ガス削減や炭素を土中に隔離する効果のある農法・技術の導入を促進するものであった。102の作物を対象に198の農法・技術が対象となっていた。
同時にこのような農法・技術を用いて生産された農産物を有利販売する取り組みや、炭素排出取引に農場を引き込むねらいもあった<注1>。予算規模は31億ドル(1ドル140円で4340億円)で、トランプ政権下で支払いが凍結され見直しがおこなわれていたが、米国農務省は4月14日(現地時間)に同プログラムの廃止とともに、新たな施策である「生産者のため市場前進イニシアチブ」(以下では「市場前進イニシアチブ」)への再編を発表した。
終わりの見えないまま続いた3ヵ月近くにわたる予算支出の凍結は、すでに5年計画での「気候スマート・プログラム」に参加していた団体・農場を資金枯渇の危機にさらした。今後「気候スマート・プログラム」に参加していた事業は、農務省による審査を経て、「市場前進イニシアチブ」の下でも事業への支援が受けられる。
ロリンズ農務長官は、「気候スマート・プログラム」では、支出された政府予算の多くが農場ではなく、事業のパートナーであるNPO法人に支払われていることを問題に上げ、「市場前進イニシアチブ」では補助金額の65%が農場に支払われることが事業の採択要件として課されるとしている。
このような制度・施策の見直しは、トランプ大統領の就任と同日に公表された「トランプ大統領の米国第一の優先事項」に沿っておこなわれたと農務省は説明している。
米国の食と農、フードシステムに関するニュースを配信するインターネットニュースサイトのシビル・イーツ(Civil Eats、「市民の食」)<注2>によると、気候スマート・プログラムを含めて、4月16日時点ですでに廃止が決定された施策は五つもある。その中には、地元産の農産物を学校給食に提供する活動を支援するもの、地元産の農産物を地域のフードバンクに供給することを支援するものなど、地産地消に取り組む小規模農家に直接的な打撃を与えるものが含まれている。
また、制度そのものは維持されているが、その制度下でこれまですでに採択され継続中の事業に対して、個別に補助金支払いが凍結されたり、打ち切られるという事態も生じている。「ファーマーズマーケット促進プログラム」を含む3施策において個別事業への補助中止が報告されている。さらに農務省管轄の25の施策で補助金支払いが一時凍結されている。うち4施策では支払いが再開されているが、検討中として凍結が続いているものもあり、凍結中の補助対象者に対して農務省からは見通しも示されていないという。
「市民の食」は、トランプ政権の方針に振り回される小規模農家による地産地消活動の実情を伝えている。新型コロナウィルスの流行によって物流が混乱し、食料品店に食品が供給されないという事態を受けて、米国では地産地消や地域の小規模農家に対する食料供給の期待が高まり、それを受けて地域の小規模農家と消費者を結ぶ取り組みや施策がこの5年の間に実施されてきた。それらが着実に成果を上げてきたところを「根こそぎにされている」と。補助金を受けて活動していた地域の小規模農家を支援する団体では職員の一時解雇や、この時期に計画していた活動を中止するなどして、資金ショートをしのいでいることが報告されている。
とくに米国版地産地消であるCSAでは、現在が今年一年間の野菜購入・販売契約を消費者と農家の間で交わす時期であり、より多くの消費者を集めるために、さまざまな広報活動を企画・実施する期間であるため、補助金支払い凍結の影響は大きいようだ。
補助金凍結の理由や手続きの全体像は明確ではない。小規模農場を支援するNPOや農場は、補助金凍結を違法だとする訴えを起こしている。
小規模農場を中心とする活動が農務省の補助金凍結による資金ショートにあえぐいっぽう、トランプ政権は、コモディティと呼ばれるトウモロコシ、大豆、油糧種子などを生産する大農場に対する経済的救済措置についてはその継続を決定し、すでに3月19日から直接支払いのための申請の受付が開始されている。
<注1>Progressive Farmer ニュース (https://www.dtnpf.com/agriculture/web/ag/news)
<注2>Civil Eats (https://civileats.com)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】とうもろこしにアワノメイガが多誘殺 早めの防除を 北海道2025年7月1日
-
米の高騰一転、産地に懸念 政府が「暴落」の引き金? 小泉劇場に不安広がる2025年7月1日
-
JAcom、インスタ・YouTube・TikTokで農協の魅力を楽しく、かわいく発信中!2025年7月1日
-
米価 5週連続で低下 5kg3801円 農水省調査2025年7月1日
-
【人事異動】農水省(7月1日、6月30日付)2025年7月1日
-
米の増産を 石破総理が強調 米の関係閣僚会議2025年7月1日
-
農水省 熱中症対策を強化 大塚製薬と連携し、コメリのデジタルサイネージで啓発2025年7月1日
-
作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
-
【JA人事】JA岡山(岡山県)新会長に三宅雅之氏(6月27日)2025年7月1日
-
【JA人事】JAセレサ川崎(神奈川県)梶稔組合長を再任(6月24日)2025年7月1日
-
【JA人事】JA伊勢(三重県) 新組合長に酒徳雅明氏(6月25日)2025年7月1日
-
米穀の「航空輸送」ANAと実証試験 遠隔地への迅速な輸送体制構築を検証 JA全農2025年7月1日
-
JA全農「国産大豆商品発見コンテスト」開催 国産大豆を見つけて新商品をゲット2025年7月1日
-
こども園で食育活動 JA熊本経済連2025年7月1日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施2025年7月1日
-
7月の飲食料品値上げ2105品目 前年比5倍 価格改定動向調査 帝国データバンク2025年7月1日
-
買い物困難地域を支える移動販売車「EV元気カー」宮崎県内で運用開始 グリーンコープ2025年7月1日
-
コイン精米機が農業食料工学会「2025年度開発賞」を受賞 井関農機2025年7月1日
-
「大きなおむすび 僕の梅おかか」大谷翔平選手パッケージで発売 ファミリーマート2025年7月1日
-
北海道産の生乳使用「Café au Laitカフェオレ」新発売 北海道乳業2025年7月1日