流通:加工食品の原料原産地表示を考える
加工食品の原料原産地表示を考える[2] 全農グループが自主基準で表示2013年3月19日
・生産者にダメージ与える現行制度
・自主基準で消費者の選択を促進
・中間加工品も対象に
・「冠」商品は表示対象
加工食品の原料原産地表示の拡大については、消費者基本法に基づいて平成22年3月に閣議決定された「消費者基本計画」のなかで「義務づけを着実に拡大する」とされた。しかし、その後の検討の場で事業者などの合意が得られず、前回紹介したように、新食品表示法が成立した後に改めて検討の場が設けられることになっている。
一方、前回指摘したように現行の表示制度では、表示対象外となる食品が多く消費者が国産原料と誤認している恐れもある。こうしたことからJA全農は昨年から加工食品の原料原産地表示の自主基準を策定しそれに基づく表示に取り組んできており、3月7日には改めて説明会を開きグループ全体で25年度中にこの自主基準による表示に切り換える方針だ。今回はその狙いと概要を紹介する。
対象は「すべての加工食品」が原則
25年度中にグループ全体で実施
◆生産者にダメージ与える現行制度
前回も指摘したように現行の制度では表示の対象外とされるものが多く、消費者に「国産」と誤認を与えている恐れがある。改めて例を挙げると、
▽串刺し生鶏肉が冷凍で輸入され、国内で調理・加熱された「焼き鳥」に鶏肉の原産地表示は不要。
理由は、景品表示法が原産国を「その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行われた国」と定義しているからである。 同様に▽海外で下処理(1次加工)した豚肉を輸入し、国内で製造されたハムは原産国表示は不要である。
こうした商品は、原料である鶏肉や豚肉が輸入品なのに「国産」と消費者に思わせている可能性が大きい。国産を選びたい、原料原産地を知りたい、という消費者の要望に応える制度になっていないということでもある。
さらに問題なのは、鶏肉も豚肉も下処理された調整品のほうが、生肉よりも関税が優遇されているため輸入が増加しているということだ。つまり、国産だとばかり思って購入していたのに、それが実は国内の生産者にダメージを与えていることになる。
JA全農も消費者庁の意見募集などで、現在の原料原産地表示は[1]消費者に正確な情報提供をしていない、[2]国内の生産者に対してフェアではないことを強調し「生産者団体としては、このような表示実態を是正し公平公正な競争と秩序ある流通を確立するためにも、原料原産地表示の拡大を強く求める」と主張してきた。
(写真)
3月7日に開かれた全農の説明会
◆自主基準で消費者の選択を促進
こうした制度づくりの働きかけはJAグループとして取り組みを続けるものの、一方ではJAマークや全農マークを貼付して販売している加工食品のなかには輸入原料を使用したものもある。ただ、JAあるいは全農に対しては国産のイメージが強く、消費者に対してすべて国産原料を使用しているかのような誤解を与える恐れもある。
こうしたことから輸入原料を使用した商品には原産地情報を開示することで誤認を解消し、また「国産」であることを表示することによって消費者の選択を促進しようというのが自主基準策定の理由だ。JA全農ではこの取り組みが国内農業の生産振興と、自給率向上につながるとの考えで実践を進める。
ただし、自主基準、すなわち現行のJAS法が定める範囲を超えた任意表示とはいえ、内容に間違いがあった場合や、表示方法で消費者に誤認を与える場合は表示関連法などの違反に問われることもあり、当然のことだが適正な表示をすることが必要だ。
◆中間加工品も対象に
全農グループが自主基準を適用して原料原産地表示に取り組む食品は、商品に全農名(社名に全農を含む)や全農が所有する商標、JAマークを表示・貼付するもの。他社に使用許諾する場合も適用範囲とする。ただしJAマークには愛称JAを記載する場合や、社名にJAを含む場合は除く。
表示の基準は原則としてすべての加工食品を原料原産地表示の対象とする。
そのほかの基準としては、
▽表示が必要な「主な原料」とは、原料に使用された主要な一次産品が原材料で、これを加工した粒状、粉末状、フレーク状、液状、ペースト状等の中間加工品も含む、としている。
現行のJAS法では粒状、粉末状など中間加工品になった場合は原産地表示の対象外となっている。そのため米粉や玉ネギの粉末、トマトペースト、濃縮果汁などは輸入品であっても表示義務がない。これを全農の自主基準では表示対象とする。 ただし、調味・味付けに使用する原材料(黒糖を除く砂糖、食塩、調味液、しょうゆ、香辛料など)と動物油脂、食品添加物は対象から外す。
また、表示が必要となるのは▽原材料に占める重量割合が上位2位までのもので、かつ、原材料に占める重量割合が5%以上のもの、としている。現行JAS法では表示対象を「単一の農畜産物の重量割合が50%以上」としていることからすれば、ほとんどの原材料が対象になる。
(上図は、原料原産地表示(自主基準)の概要。クリックすると大きなサイズの画像が出ます。)
◆「冠」商品は表示対象
そのほか、冒頭に例にあげたような海外で下処理した豚肉など、中間加工品も原産地表示の対象とする。
また、原産地が3か所以上ある場合は、2産地までを表示し、3位以下は「その他」と記載することができることにした。
さらに「冠」商品についても表示対象とする。冠商品とは「エビピラフ」、「かにシューマイ」など商品名に原料の一部の名称をつけた商品のこと。ただし、エビピラフを思い浮かべれば分かるように重量割合は非常に少ないため、表示の対象となることはない。そこで全農の自主基準では冠商品については重量割合にかかわらず原料原産地を表示することとした。以下、具体的な表示例や留意点などは次回紹介する。
農業では農産物加工などによって付加価値をつけて生産者や農村の所得向上につなげることが一層課題となっている。いわゆる6次産業化だが、この取り組みを進め消費者に国産農産物を選択するうえでも原料原産地表示が必要だ。
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