流通:加工食品の原料原産地表示を考える
加工食品の原料原産地表示を考える[8]インタビュー立石幸一・JA全農食品品質・表示管理部部長2013年9月20日
・消費者の権利を明記
・情報開示が時代の流れ
・できることから議論を
食品表示を一元化するための新法「食品表示法」が6月に成立、公布された。新法は公布日から2年以内、すなわち27年6月までに施行されることになっている。それまでに加工食品の原料原産地表示の新たなルールを検討することになっているのだが、検討の場すらいまだに決まっていない。
一方、本欄で紹介してきたように、JA全農は原料原産地を表示するとした「自主基準」を策定し、原則として取り扱うすべての加工食品を対象に自主基準を適用する取り組みを始めている。今回は、新法のもとでの食品表示のあり方や検討体制の課題、JA全農の自主基準の意義などについて立石幸一食品品質・表示管理部長に聞いた。
新法の理念ふまえた表示制度を
◆消費者の権利を明記
――新法によって何が変わるのか、お聞かせください。
食品表示の考え方が決定的に変わるということです。新法の基本理念は「消費者に対し必要な情報が提供されることが消費者の権利であることを尊重する」と明記しています。 今まではJAS法、食品衛生法、健康増進法それぞれに食品表示の目的がありましたが、それを一元化し、つまるところは「消費者が必要とする情報を提供する」という理念になった。これは画期的なことで、そもそもの骨格が変わるということです。
――現行の原料原産地表示の考え方との違いと今後の議論に求められることは何でしょうか。
加工食品の原料原産地表示はJAS法で規定されています。これは「品質」の表示を適正化することが目的ですから、原料の原産地の違いが加工食品の「品質」に反映すると認められる場合に原産地の表示が義務づけられ、現行では4品目と22食品群に限られています。
しかし、表示義務のないものが多いために国産品との誤認を与えている事例が多いだけでなく、「ゆでダコ」には表示義務があるのに、ゆでたものをさらに調味したという理由から「酢ダコ」は対象外など基準が不明確な例も多い。そこで消費者団体やJAグループは表示対象を広げるように求めてきましたが、コストがかかるなどの理由から事業者には抵抗感があり議論が進んでいませんでした。しかし、新法の成立によって、2年後にはJAS法の考え方による表示制度はなくなるわけです。つまり、新しい理念に基づく新しいルールにここで一気に修正できる機会だということです。
◆情報開示が時代の流れ
――たとえば、どんな表示が可能になるとお考えですか。
原産地が頻繁に変動する場合や、輸入原料と国産原料を併用する場合は、「その表示が事実を示しているかどうかを基準とする」現行のJAS法では、原産地を断定的に表示することは困難です。こういった問題に対しては、例えば一定の条件のもとで、過去の実績にもとづいた原産地別の割合表示を認めるなどといった対応が必要です。
新法の理念は、消費者が知りたい情報を提供することです。言い換えれば、これまでのような国産品と誤認することを防ぐために情報提供する、という考え方に立てば、これを可能とするルールもつくることはできます。つまり、現行のJAS法の発想から頭を切り変える必要があると思います。

――表示ルールづくりの議論が進まないなか、JA全農は自主基準による表示に取り組んでいます。その意義はどこにあるのでしょうか。
「こうすれば原料原産地表示はできる」ということを率先して示したということだと思います。それも一部ではなく取り扱う1400品目すべてで表示を見直ししようとしています。本当に各県本部のみなさんの努力には感謝しています。
実際には、外国産原料を使わざるを得ないものがこの自主基準によって明らかになるのですから、抵抗があると言われたこともありました。しかし、会議の場で表示の意義を説明するとJAの方々も賛同してくれた例もあります。
自らが情報開示をしなければ、世の中を変えることはできない。JA全農の原料原産地表示の取り組みは『実際にできている』という証明を突きつけている非常に力強いものだと考えています。
われわれが自主的に表示に取り組もうとしたのは、情報開示を第一義にすることが大事だと考えたからです。消費者に誤認を与えることによって商品を販売している構図があるからで、それはJA全農グループも同じです。そこは是正しなければなりません。知らず知らずのうちに誤解を招いていることもあるということです。
それを解消しそのうえで国産品を愛好していただく人が増えれば増えるほど、われわれはそのニーズを反映し生産に結びつけていかなければなりません。それが結果として自給率の向上にもつながると思います。
もちろん業者の負担にならないルールは検討されるべきですが、せめて主原料については情報開示しましょうと呼びかけたい。新しい法律ができたのだから、表示に対する考え方を切り替える必要があるということです。
◆できることから議論を
――今後の検討にはどんなことが求められますか。
いつどこで検討するのかということがいまだに決まっていないのは問題ですが、きちんとたたき台を示して議論していくべきです。事業者と消費者との間には壁があることは確かですし、実効性のある表示制度でなければ意味がありません。
ですから、できることについて具体例を示して議論をしていく必要があります。その際、生産者団体として率先して消費者に情報開示していくというわれわれの取り組みは意義のあることになると思います。
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