「宇宙園芸」創造へ 千葉大が「研究センター」開所 環境制御や資源循環追究2023年5月31日
千葉大学の園芸学部は日本では唯一の園芸学部で、園芸品目に特化して施設園芸を中心に人工光型の植物工場では国際的にもリードする研究を重ねている。今年1月には同大学大学院園芸学研究院に宇宙園芸研究センターが開設された。同大学大学院園芸学研究院の松岡延浩院長、宇宙園芸研究センターの高橋秀幸センター長に園芸学がどう宇宙につながっているかを取材した。
センターの開所式に臨んだ中山俊憲学長(中央)、高橋秀幸センター長(左)、松岡延浩院長
地上の常識通じず
同センターの開所式と記念シンポジウムは、千葉県松戸市の同大学松戸キャンパスで5月17日に行なわれた。JAXA(宇宙航空研究開発機構)有人宇宙技術部門きぼう利用センターの白川正輝センター長、東京理科大学スペースシステム創造研究センターの木村真一センター長が臨席した。白川氏は「(センターでは)宇宙空間でのQOL(生活の質向上)を含めて幅広い研究が行われるのではないか」との期待を述べた。
千葉大学では国際宇宙ステーション「きぼう」でキリン、JAXAなどとの共同研究としてレタスの袋培養実験を行い、また0.1気圧のもとでナズナを開花結実させる試験栽培など、宇宙を想定した実験を行ってきた。
宇宙植物学の第一人者である高橋センター長は「地球上では植物の根は重力に応答して下に伸びる。宇宙空間では重力に対する反応がなくなるので水の多い方向に向かうようになる。その仕組みを遺伝子レベルで解明すれば、乾燥地帯や節水型の農業に有用な知見が得られる」と宇宙実験の意義について解説した。
また「宇宙空間では風・虫などが媒介となる植物の受粉をどうするかも課題になる。対流の小さくなる宇宙空間では植物の光合成に必要なガス交換がさえぎられるため、光合成のための最適な風の起こし方という研究も必要になる」とも説明した。
宇宙空間の生活想定し構成
松岡延浩院長
2030年代には、100~1000人程度が月面に居住すると想定され、食料の供給が必須の課題となる。松岡院長は人類が宇宙空間で生活することを想定しセンターを構成したという。「宇宙などの特殊環境で生育し、安定した食料生産に資する品種の開発を行う宇宙園芸育種研究部門。低圧・低重力下における植物の生産技術を開発する高効率生産技術研究部門。廃棄物を、リサイクルやその他活動によってゼロに近づける物質循環型のシステムを開発するゼロエミッション技術研究部門。この三つが互いに補完することが重要だ。このシステムができると地上での農業にも応用できる」と指摘した。
センターでは宇宙空間を想定した植物工場でトマト、キュウリなどの栽培実験を行う。その結果を踏まえ、国際宇宙ステーションなどでの植物栽培装置での実験の解析結果を通じて、地上でさらなる開発をする。
求められる大胆発想
高橋秀幸センター長
例えばイチゴは傷つきやすいので、非接触での収穫技術が問題になる。無重力下であれば収穫は楽になる。地上での重力下という状況を無条件に受け入れるのではなく、それを「変更できる」という立場にたてば大胆な発想も可能となる。
松岡院長は「センターは若い教員で構成されており、彼ら彼女らが未知の環境下で行う、誰もやったことがない宇宙園芸に挑戦していくことによって、いままでの園芸の枠組みにとらわれない園芸技術、さらには園芸学が創り出されるのではないか」と期待する。
高橋センター長は「単に食料生産だけではなくて、例えば宇宙飛行士が宇宙で植物実験をして、植物に接していると癒やされるはずです。
この癒やしの問題は、これから宇宙滞在が長くなると大きくなっていく。花や宇宙ガーデンをも考えると、宇宙園芸という領域は幅広いものになるのではないか」と説明したうえで、「宇宙園芸は植物工場に代表される環境制御だけではなく、宇宙用の新しい作物を開発し、その栽培技術を確立し、ゼロエミッションを実現する。
これらが一体化して宇宙での園芸生産になる」と話した。
成果を地上にも応用
宇宙園芸の研究成果は地球上の農業・食品産業の活性化にも応用でき、将来の社会価値創造に貢献する。センターの設置は、千葉大学が強みとしてきた植物工場・環境調節技術と工学のドローンに代表されるロボット・センシング技術、システム制御技術に加えて、新規作物の育種やゼロエミッション技術の開発とともに、新たな近未来の農産業像の創造につながっていくことが期待される。
我が国の農業の主流は稲作農業にあり、今まで農学部はその路線の延長線上にあった。JA全農の販売事業分量でも、今や園芸事業が最大となったように園芸品目の経済規模が増大するなかで、今後の千葉大学園芸学部のリード役を期待したい。
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宇宙園芸研究センター開所式 宇宙での食料生産研究を 千葉大
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