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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2016.10.11 
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 農水省が、先週末の7日に、SBS米の価格偽装についての調査結果を報告した。
 その内容は、価格偽装は確かにあったが、国産米への影響は事実として確認できなかった、というものである。だから、事実に基づけば影響はなかった、と言いたいのだろう。
 影響は軽微だった、という報告なら分からぬでもない。しかし、軽微な影響さえも確認できなかったことになる。
 これでは、誰もが納得できない。国会で野党が一致して、再調査を要求すべきだろう。

 この報告書は、「輸入米に関する調査結果について」と題するものもで、SBS米だけでなく輸入米全体にも言及している。さらにTPP合意案にも触れている。
 ここには、SBS米の価格偽装だけでなく、日本農業を揺るがす大きな問題が、山ほどある。

 はじめに、調査の経緯について書いてある。ここからして問題がある。経緯は、次のとおりだという。新聞などで価格偽装が報道されたが、これは民間どおしの問題で、政府が介入すべき問題ではない。しかし、農業者などがSBSに対して不信感をもっているので、それを取り払うために調査した、という。
 いったい、SBSは民間どおしの取引か。そうではない。詳細な説明は省略するが、米のSBSの取引は、いったん政府が輸入業者から輸入米を買い取り(Buy)、それを政府が同時に(Simultaneus)卸売業者に売渡す(Sell)方式である。だから、SBS方式という。
 政府は、SBS取引の立役者なのである。そこで政府は、政府が業者に偽装されたことを確認したのである。
 もう1つの経緯は、農業者などの不信感を取り払う、というのだが、この報告書では、とうてい取り払えない。

 価格偽装について考えよう。
 価格偽装は、たしかにあった、という。卸売業者の27%、輸入業者の73%が偽装していた。つまり、半分以上の取引に偽装があった。それは、いわば日常茶飯事として行われていた。
 しかし、これは調整金や販売促進費などの名目でやりとりする商習慣で、だから、違法ではないというのだろう。したがって、これは制度の問題である。SBS制度の問題であり、市場制度の問題でもある。
 両業者間のいわゆる調整金の原資は、どこから出てきたのか。SBS取引の中から出たとしか考えられない。SBSは、大きな利益を生み出す、美味しい取引なのだろう。そこは暗い闇に包まれている。
 毎日新聞の報道では、輸入業者の実際の輸入価格は105円(以下、1㎏当たり)だったが、145円と偽装し、差額の40円を調整金として卸売業者に渡したという。145円で落札できるほどに美味しい取引だったのだろう。

 しかし、それ以上に大きな問題がある。実際の輸入価格といわれる105円が怪しい。輸出国の現地での価格は50円程度である。国際的な米価は、この程度である。この50円の米を日本が輸入するとき、何故105円になるのか。これも美味しい取引で、ここにも暗い闇がある。
 調整金の40円は、美味しい部分を輸入業者と卸売業者の両者で山分けしたもので、卸売業者の取り分が40円だったのだろう。卸売業者だけが美味しい部分を一人占めした、とは考えられない。調整金を支払う側の輸入業者には、40円以上の美味しい部分が残っている、と考えるのが妥当である。
 調査に期待していたのは、そこのカラクリだった。輸出国の農家の庭先の段階から、日本のSBS入札の段階までに、価格がどのように付加されてきたか。この追跡調査を期待していたが、見事に裏切られた。マスコミも、そこまでは追求しない。

 調整金の40円には、市場制度の問題もある。これは、自由な競争市場では、あり得ないことである。調整金の財源は、通常の利潤を超える超過利潤以外にない。こうした超過利潤は、競争の結果、ゼロになる筈である。しかし、実際にはゼロになっていない。
 だから、SBS米の市場に調整金があることは、その市場が自由な競争市場でないことを意味している。つまり、SBS米の取引は自由な競争取引のなかでの国際米価ではない。闇の中での米価である。
 SBSは本来、輸入自由化を予定して作った制度である。そした反農業者的、反国民的な、うす汚い目的を持った制度である。だから、政府は、無理矢理に輸入米は国産米と同等だ、といっている。つまり、TPPの大原則である関税ゼロの輸入自由化を目ざしているから、そのためには、SBS米の輸入価格は、高ければ高いほど、国産米の価格に近づき、政府にとって、農業者を説得しやすいので好都合である。だから闇の中の超過利潤を、長年のあいだ見て見ぬふりをしてきた。そのことが、こんどのSBS米の価格偽装の発覚で、闇の中から透けて見えてきた。

 つぎは、報告書が、SBS米が国産米の需給と価格に及ぼす影響を否定した問題である。
 国産米価とSBS米の輸入量との関係を、グラフまで持ち出して、説明している。しかし、このグラフは相関関係を示しているだけで、因果関係は示していない。SBS米の輸入量が多い年ほど国産米価は高くなる、という因果関係を読み取らせようとしているが、愚かなことである。
 供給量が多くなれば価格は下がる、ということは、経済の初歩的な常識である。報告書は、それを否定し、逆の解釈をしようとして失敗している。

 報告書の名前は「輸入米に関する...」である。だから、本欄でもSBS米だけでなく、輸入米の全体が国内の米の需給と価格に及ぼす影響を考えよう。
 農水省の資料で2015年度の米の需給をみると、国内生産量は843万トン、輸入量は83万トンである。輸入量が国内生産に及ぼす影響は明らかである。輸入量がゼロならば、国産米は83万トン増産できる。北海道と佐賀県の生産量を足し算したよりも多い。その分、減反を少なくすることができるし、食糧自給率が上がり、危機的な食糧安保が僅かではあるが改善される。

 つぎに、83万トンの輸入米が、どれほど米価を下げているか、を考えよう。
 研究者の間では、米は供給量が1%増えれば価格は3%下がる、というのが定説である。輸入米は国産米の9.8%だから、米価はその3倍の29%下げている、と考えられる。これが、研究者間の常識である。今の米価(以下は玄米60kg当り)は、1万3263円だから、輸入米がなければ、1万8680円だったはずである。つまり、輸入米は米価を5417円も大幅に下げたのである。
 輸入米は、国内の米生産と米価に、これだけ甚大な影響を及ぼしている。このことを報告書は闇の中に隠している。
 報告書が、農業者の不信感を取り払いたいのなら、これらの闇を、一点の曇りもない秋空のように晴らさねばならない。しかし、その結果、SBSの反国民性があらわになって、ますます農業者の不信感は募るだろう。

 最後に言いたいことがある。
 それは、TPPの合意案では、SBS米の輸入枠を広げる、というが、それは義務ではなく、枠を余してもいいことになっている。
 このことは、反TPP運動の1つの大きな具体的成果である。この勢いに乗って、当面、輸入米全体を義務から外す運動に広げたらどうか。それには、多く国民の支持のもとで、野党が一致して要求することが決め手になる。
 それは、充分に可能である。日本は民主主義の国だから。
(2016.10.11)

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