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2017.04.19 
【米生産・流通最前線2017】コメ業界 地殻変動は確実一覧へ

業務用米 どう価格決定?
ブランド米 戦略見直しを
米穀新聞社記者 熊野 孝文

 米産地では30年産以降の生産調整の見直しに向けて需要に合わせた生産をめざした取り組みの検討が進んでいる。一方、米の需要動向に変化が見られるなか、流通業界も消費者の動向に向き合い戦略を立てる必要に迫られている。それを象徴しているのが、産地にとっても流通業界にとってもこれまでにない有名ブランド米の販売不振だという。業界の最新動向から課題を考えたい。

◆新潟コシヒカリ下落

米生産・流通最前線2017 3月中旬、新潟県の稲作生産者と東京で懇親する機会があった。
 40haの水田を耕作しているという生産者の上京の目的は「今後どんなコメを作れば良いのか」情報収集に来たというもの。その席で生産者が「多収穫の種子が手に入りませんかね」と切り出したのには驚いた。この時期に新しい種子を手当てして間に合うのかと思ったが、生産者は「今、コシヒカリを庭先で売ろうと思っても1万3000円位でしか売れないんですよ」と顔を曇らせた。
 想定外と言うべき新潟コシヒカリの大幅な価格下落。これまで長年にわたり銘柄米のプライスリーダーとしての役割を果たしてきた新潟コシヒカリの価格下落は、平成30年の国による生産数量目標配分廃止に向け、コメ業界の大きな地殻変動を予兆させる出来事と言える。
 30年以降、コメ政策の柱になる需要に見合ったコメ生産は業界にどのような変化をもたらすのか?

◆道産米の相場が急伸

 若手米穀業者の集まりで、関西の業者が「新潟コシヒカリがこんなに安いのはおかしいですよ。新潟コシヒカリは買いです。皆さん、そうですよね。買いですよね」と興奮気味にまくしたてた。それに呼応するかのように東京の玄米卸も「新潟コシヒカリが余っているといっても2万tぐらい。特売すればすぐなくなるよ」と言っていた。そうしたやり取りがあってから1か月が過ぎようとしているが、新潟コシヒカリの実勢相場が浮上する気配がない。その一方で、北海道のななつぼしは急騰、ついに関東着で1万5000円を超える値が付いた。いったいコメの流通業界で何が起きているのか。

表1

 コメの卸業界団体の全米販の需給見通しでは、今年10月末の28年産持ち越し在庫を24万tと見通している(表1)。この数量は昨年10月末より8万t少なく、端境期は需給がタイト化すると予想しているのだが、ことコシヒカリに関してはこうした見通し通りの値動きにはなっていない。タイト化を見越して値上がりを続けている筆頭は北海道産米で、それに続いて秋田あきたこまちやはえぬきなど東北各産地の銘柄米である。

表2

 供給面から各産地銘柄米の28年産米の状況を見ると、新潟コシヒカリの検査数量は1月末現在で31万8020t、前年同期は27万8644tだったので3万9376t、率にして14.1%多いということになる。東北のあきたこまち、ひとめぼれや北海道産各銘柄が前年同期を下回る検査実績になっているのからすれば新潟コシヒカリの検査数量の多さが目立つ。JAの集荷量(表2)も前年産にくらべ9%ほど多くなっており(北陸)、供給過多になっているという状況は否めない。28年産米の生産量は全国ベースでは前年産を上回っているが、商品化率(生産量に対する検査したコメの割合)の高い北海道、東北が軒並み落ち込んでいるのに対して唯一大幅に主食用米の検査数量が前年を上回っているのが新潟コシヒカリなのである。

◆価格と販売量 反相関?

★新潟コシ 売れ行き乱高下
【図1】おもな産地銘柄米の販売数量の前年同期比おもな産地銘柄米の販売数量の前年同期比


 一方、販売はどうなっているのかというと、毎週ごとの精米販売POSデータを見ると3月第2週では1000人当たりの購入数量で最も多かったのは新潟コシヒカリで13.9kgになっている。2位は秋田あきたこまちで12.4kg、3位が茨城コシヒカリ11.6kgの順。ゆめぴりか5.3kg、つや姫の4.1kgに比べ、定番の新潟コシヒカリや秋田あきたこまちの購入量が多いことが読み取れる。ただ、新潟コシヒカリは週によって販売量が大きく変動しており、3月第1週は7.3kgしか売れていない。折れ線グラフにすると週ごとに大きな山と谷が表記され、のこぎりの歯のようになっている(図1)。
 これは何を意味しているのかと言うと、おそらく新潟コシヒカリを購入する層は限定されており、その層が購入するときだけ購入量がアップするということなのだろう。5kg当たりの価格が最も安い茨城コシヒカリは順位こそ3位だが、10週連続10kgを超えており、コンスタントな売れ行きを見せている。価格の点でいえば新潟コシヒカリは前年同期に比べ3月第2週は7.8%も値下がりしたので、これが販売量を押し上げた最大の要因と考えられる。
 このPOSデータは、今後の家庭用精米の売れ行き動向を知るうえで示唆に富んだ数値を多く含んでいる。
 第一は販売価格と販売量の反相関関係が明確になっていることである。価格が下がればそのコメは販売量が伸びるという点で、唯一例外的な銘柄がななつぼしで、値上がりしても販売量が落ちない。
 第二は新潟コシヒカリ信奉者の減少が読み取れることで、この層はつや姫やゆめぴりかなど新興勢力の良食味米にシフトしているとみられる。
 第三は銘柄によらず低価格のコメはコンスタントに売れるという点である。量販店の売り棚は、弁当・惣菜等の売り場を拡大、その分精米販売の売り棚を縮小する方向にある。そうした売り棚の変化が起きつつある時にどうやってブランド化しようと思っている自県産米の売り棚を確保するのか。大々的にテレビCMで宣伝しても売っている場所がないというのでは話にならない。これは笑い話ではなく、得てしてコメはリテールが上手く出来ていない。
 名前が覚えきれないほど次々に良食味を謳った新品種がデビューしている現状では、将来的にも量販店・百貨店等の売り棚をどうやって確保するのかが最大の課題になる。

◆   ◆

 農水省はコメのマンスリーレポートの特集として「主食用米の需要に応じた生産」と題して「外食・中食等の需要者と産地との間での安定取引の拡大が必要です」という内容の記事を掲載した。主食用米の消費内訳は家庭用が69%、中食・外食の割合が31%で今後、中食・外食は堅調な需要が期待されるので、こうした実需者と産地は複数年契約・事前年間等の安定取引が重要だとしている。
 翌月の特集では、その業務用向け販売量について産地銘柄別の割合を掲載した。こうしたデータはこれまでなかっただけに関心を集めた。業務用販売割合が最も高い県は栃木県の67%、次が福島県の64%で岡山、山形の順に続いている。この特集では価格についても触れられており「価格帯別の販売量をみると1万5000円/60kg以上の高価格帯も販売されているが、1万3000円/60kg未満の銘柄が約8割販売されており、低価格帯での取引が大宗を占めている」としている。
 言いたいことは、需要に見合ったコメ生産をするなら業務用として価格の安いコメを作りなさいということなのだろうが、極めて重要な点が抜け落ちている。それは需要に見合ったコメの価格を誰が決めるのかという点である。産地と需要者の間で相対で決めれば良いと思われるかもしれないが、そんな単純な話ではコメは動かない。
 平成30年に向けて最も重要な課題はどうやって価格を決めるかであり、その場合、作付段階からその年に収穫される銘柄別の価格が分かる市場が必須なのである。

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