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【コラム・森田実の政治評論】極端化する「一強多弱」下の日本の政治状況2015年11月20日

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【森田実 / 政治評論家・山東大学名誉教授】

すべての道は2016年夏参院選に通じている

 大きな木は倒れても、枝や葉が茂っているため、中心の幹は地面につくことがない、という日本の諺です。大きな集団の中心人物は失敗しても、周囲の人によって守られる仕組みになっている、ということです。力のあるものは立ち直ることが可能なのです。

「大木は転べども地につかず」(日本の諺)

◆強いものはさらに強くなり、弱いものはさらに衰える


 いまの日本の政治状況は「一強多弱」と言われています。「一強」とは安倍自民党内閣のことです。「多弱」とは野党のことです。野党の混迷はいっそう深刻化しています。野党第二党の維新の党は分裂を重ねています。野党第一党の民主党も「解党・出直し」か「現状の枠組みを維持するか」をめぐって党内に深刻な対立が起きています。その他の野党の中で元気なのは共産党だけですが、共産党が提唱する「国民連合政府」への同調者はいません。野党が一本化して、自民党に立ち向かうという願望は、はかなく消えつつあります。
 安倍自民党政権の3年間を振り返りますと、いくつもの大きな過ちがあります。3本の矢によるアベノミクスは失敗しました。3年近く経っても景気は回復しません。成長率は上昇しません。アベノミクスの失敗は明白ですが、安倍政権はびくともしません。
 2015年になって、安倍内閣は政治の中心課題を「安保法制の整備」に移しました。2015年の政治は「平和」か「戦争」か、の議論で大揺れになりました。国論は分裂し、日本社会の中に深い亀裂をつくってしまいました。国民の政治不信は深刻化しています。多くの国民は、安倍首相は米国政府の意向に従い、中国と戦争を始めるおそれがある、と思っています。安倍首相が経済再生を棚上げにして「安保法制整備」に政治の重点を変えたことは、大局的に見れば大失敗でした。だが安倍政権は倒れません。大木は倒れないのです。


◆すべての政党指導者の目は参院選へ向いている

 野党再建の道はたった一つしかありません。それは2016年夏の参院選に勝つことです。これ以外の道はありません。野党指導者は野党間の選挙協力の実現を真剣に考え始めています。しかし思うようには進みません。野党にとっての困難の第一は維新の党の分裂です。しかも「おおさか維新」は、準与党です。安倍政権の側に立っていて、反安倍の野党連合に参加する可能性はありません。維新の党の分裂によって野党共闘は潰れました。一時は共産党も含めて2016年夏の参院選で野党の一本化が期待されたことがありましたが、いまは参院選での野党統一の希望はありません。
 それだけに、2016年夏の参院選の重要性がより強く認識されているのです。
 参院選での野党統一が実現すれば、安倍自民党にとっては厳しい選挙になります。自民党の議席数が大幅に減退すれば、安倍政権の存立そのものが危うくなります。それだけに自民党も必死です。TPP対策の名目で農業対策を打ち出したのも、2016年夏参院選を意識した結果です。政界におけるすべての道は2016年夏参院選に通じているのです。


◆選挙結果を決めるのは経済状況

 2016年夏の経済状況についていくつかの予測があります。安倍内閣と中央官庁、大新聞のマスコミの見方は、私からみますと、かなり楽観的です。
 私は若い頃、月刊誌『経済セミナー』の編集長をしたことがあります。私はこのときから「経済のことは現場に聞け」をモットーにしてきました。商店街を回って消費の現場を調査しました。中小・零細企業を回り産業・企業の状況を調べました。地方経済を知るために全国各地を旅しました。タクシーに乗りタクシー運転手を取材しました。いまでも、これを続けています。私のいまの実感は「景気の低迷はかなり深刻」というものです。
 しかも世界はテロの時代です。いつどんなことが起こるかわかりません。人も企業も貯蓄性向を強めます。家庭も企業も「貯蓄」「貯蓄」です。景気上昇は至難です。
 2016年夏の日本の経済状況が悪ければ、国民の投票行動に影響します。しかも2017年消費増税が議論されます。不景気下の増税は、政権党にとっては大試練となります。
 自民党が軽減税率導入問題で公明党の主張を入れない場合、公明党の選挙協力を得るのは困難になります。農家、農村に対するTPP対策が不十分であれば、農村での票の動きに影響することは不可避です。2015年末から2016年春の政治の動きは、2016年夏参院選を意識して動いているのです。

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