【読書の楽しみ】第6回2016年9月13日
★辻田真佐憲
『大本営発表』
(幻冬舎新書、928円)
今どき「大本営発表」とは嘘八百のニュースを新聞テレビが報じることを揶揄して言います。最近では福島原発事故の際の政府や東電の発表に対して用いられました。東京五輪招致の際に安倍首相が言った英語(completely under control)も同類だという人もいます。
本書は1937年11月から敗戦まで、大本営によって行われた戦況の発表を丹念に探索し、それがどのように国民に伝えられていったかを解明しています。戦果を誇張し損害を隠すため、改ざん、捏造はお手の物で、話半分どころのものではなかったことがよくわかります。
昭和天皇が「(戦艦)サラトガが沈んだのは今度で4回目だったと思うが」と苦言を呈したほど。騙されたのは国民に限らず、軍自体も大本営発表に引きずられて「米艦隊は全滅し、もうこの方面にはいないはず」と思い込み、作戦を誤ったというのだからひどい話です。もっとも悪いのは大本営だけでなく、新聞も共犯者でした。
そして今の日本にも政権とメディアが結託した「大本営発表もどき」が頻発しているとして著者は警告を発しています。だからこそ私たちは歴史に学ぶ必要があるのでしょう。
★大倉幸宏
『「衣食足りて礼節を知る」は誤りか』
(新評論、2160円)
殺傷事件や暴力行為があちこちで起き、道徳という言葉が消滅したかのように感じると、昔は良かったと思いがちです。そこで著者は、戦後の新聞記事を丁寧に調べるなどして、昔のマナー、モラルを現在と比較します。
本書で示される昭和30年前後の日本人は想像以上にひどいものです。桜見物では枝を折り放題、ゴミは山のように放置され、ケンカ狼藉はそこかしこ、という状況でした。
それがだいぶ改善されてきたのは、ある程度、豊かになったこと、美化など啓蒙運動の広がり、酒の飲み方の変化、「ひろい」世間が拡大したこと、など多くの理由があったと著者は言います。
やはり「衣食足りる」ことがマナーやモラルに決定的に影響するというのが結論です。そして「世間」の目が日本人にはとても大事なことだとも。子どもや若者のマナー、ルールを洗練されたものにしていくためにも、参考になる事実がたくさん述べられています。
★高田郁
『あきない世傳 金と銀』
(ハルキ文庫、626円)
最後は時代小説です。読書の楽しみの一つは優れた小説を読むことにありますが、著者の時代小説には、私は裏切られたことがありません。「みをつくし料理帖シリーズ」が全10巻で完結してがっかりしていたら、今度は本シリーズが始まり今、2巻目です。
今度は大阪天満の呉服屋「五鈴屋」が舞台で、父を亡くした幸という10代半ばの少女、駄目店主、その弟、祖母、番頭などが登場します。厳しい局面をどう乗り切っていくのか、波乱曲折と人情話が交錯して、つい時間を忘れ、乗り過ごしてしまいそうです。
著者の本でいつも感心するのは細部に至るまで瑕疵がなく、ヤマ場の作り方がうまい、そして登場人物が生き生きしていること。絶対の自信をもってお薦めします。涙もろい人はご注意ください。
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