信共分離を考える2016年12月13日
11月11日に規制改革推進会議による意見書が示され、その中で3年以内に信用事業を営む農協を半減する、との内容が示された。これを含む同会議の意見書に農協団体は猛反発、21日に緊急集会を開催し抗議したことから、29日の政府・与党とりまとめではこれが削除された。だが、この問題はこれで終わりではない。むしろ始まりと考えた方がいい。
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戦後我が国で信用事業が分離されていた時代があっただろうか。答えは(信じられないだろうが)「あった」である。
1951年、米国統治下の沖縄で「琉球協同組合法」が施行された。これは琉球政府による立法ではなく、在沖米軍政府の布令によるものであった。沖縄では戦後の復興を目指して、特に食料増産に向けた農業の復興に向けて「農業組合」が各地に設立され総合事業を営んでいた。ところがこの法律では米国統治下におかれていたこともあり、米国の協同組合の形態がとられ、信用事業の兼営が認められていなかった。このため農協ではひとつの建物に「農業協同組合」と「信用協同組合」の二つの看板が掲げられることになり、役職員はそれぞれの組合を兼務することになった。
そもそもこの法令、関係機関や団体代表者会議で内容を協議(「信用事業分離論で大激論」と表現されている)している最中、結論が出ていないなか突如米軍政府から布令として公布されたという。この法令が必ずしも沖縄に適合しないということは米軍政府も認識していたようで、彼らに言わせると信用事業分離がうまくいくかどうかを検証する「テスト期間」ということだったらしい。
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当然、農業団体などは猛反発。信用事業兼営を認めるよう要請するのであるが、その理由は、1.信協のほとんどは農協の当事者(役員含む)が兼務しており、責任体制だけでなく経費面でも不合理、2.信協が地域から吸収した貯金が中金(復帰後の信連)に預金されるため地域外に資金流出して自賄体制が確立できない、3.経済事業、特に販売事業の共同体制を確立することによって信用事業の貯蓄の増加が期待できる、などである。
これに対し、政府では「信協と農協を日本のように合併し、組合を有機的に運営することは理想」としながらも、「今直ちに農信協を合併することは信協の貯金などを農協の経済事業に注入するおそれがあり戦前の例を見ても解散した組合の約3割近くは信用事業の失敗に起因している」として統合は時期尚早との見解を示していた。
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結局、6年後の1957年に琉球政府による新たな法律「協同組合法」が制定されて信用事業の兼営が認められ、以降順次総合農協へと改組されていくことになる。というより、ここではむしろ政府の方から農・信協の統合を促進・勧告している。(琉球政府)経済局協同組合課では、同一の地区にある農協と信協は極力合併して事業を集中し合理的に組合を運営するよう呼びかけている。その理由が、「協同組合の強みと特色は、組合員経済の各面に対応して各種事業の総合経営の形態をとることであり、この特色を発揮することによって経営合理化も実現する」、「特に指導金融の線を強化し、貸出にあたっては、借入者の経済または生産計画、購買、生産管理、販売から償還までの一貫した指導を並行するよう要望する」というものである。
米国軍政府の言う「テスト期間」は6年で終了した。やっぱり農協は総合事業が良いという結論になった。それから60年後の今、"また"農協から信用事業を分離しようとしている。同じ失敗を繰り返すのか(それとも「テスト期間は"まだ"終了していない」とでも言いたいのか)。
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ドイツの経済学者で資本主義の矛盾を解明して『資本論』を著し、ロシアの社会主義革命にも大きな影響を与えたカール・マルクスの言葉を借りれば、「歴史は繰り返す。最初は悲劇だが、二度目は茶番だ」。
今まさに歴史が繰り返されようとしている。茶番として。
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