【小松泰信・地方の眼力】 JAグループよ! 地域化(localization)という対抗軸の担い手たれ 2017年1月4日
 謹賀新年。一年の計は元旦にあり、という故事に従えば元旦の社説から、今年の編集姿勢がうかがえるはず。と言うことで、今回は元旦の社説を検討する。
◆地方紙におけるアベノミクスへの失望とグローカルという視座
 結論を先取りすれば、地方紙の多くがアベノミクスに失望している。「『アベノミクス』の恩恵は地方に滴り落ちておらず、富裕層と貧困層の二極分化に拍車がかかる。非正規労働者の増大、高齢者、子どもの貧困が社会問題化している。このままでは社会の土台が揺るぎかねない」という河北新報の筆致が、失望の中身を端的に伝えている。
 このような状況を打破するキーワードとして、〝グローカル〟が提起されている。避けようもないグローバル化(globalization)と、地域の特色や特性を考慮する地域化(localization)の混成語であるグローカリゼーション(glocalization)の略語である。
 西日本新聞は、「郷土の発展を願う先人たちが実践し、今日まで受け継がれてきた地域づくりの視座」として「グローカル」を位置づける。そして「地域に軸足を据えつつ、世界的な視野で行動する。代表的な存在は平松守彦・前大分県知事」として、あの「一村一品運動」を例示している。
 宮崎日日新聞は、「政権が掲げるばら色の看板が、空疎に響くのはなぜか。国民の生活実感と懸け離れているからではないか。その乖(かい)離(り)が広がるほどに、格差は深刻になり、特に担い手不足が懸念される農山村や復興道半ばの被災地は置き去りにされる恐れがある。...国は地方と『共に』未来を考えるべきだ。そして国際社会と『共に』、温暖化防止や平和の実現に向けて力を尽くさねばならない。...ローカル(地方)とグローバル(世界)の問題は『共に』考えるべき時代に来ている」と、政権を鋭く批判し〝グローカル〟で考えることを提起している。
 そして北海道新聞も、成長ばかり追求するアベノミクスが社会的経済的情勢に〝逆行〟しているとし、「仮に成長しても、亀裂ある社会は健全ではない」とする。そして、この社会の亀裂や分断を修復する手立てとして「グローカル」に言及している。「グローバル化で生まれた格差・分断をローカル的な包摂で是正する―。そんな努力」によって、「身近で雇用環境を整え、福祉の拡充」も目指す。そのためには国の権限、財源、人材の地方移転が不可欠とする。結果として地方に力がついたら、「移民受け入れを検討してもいい」と、唯一移民問題にまで踏み込んでいる。
◆地域づくりの具体例を示す
 汗をかき、知恵を出し、地方衰退に歯止めをかけようとしている地域の例も紹介されている。
 南日本新聞は、2003年から霧島市溝辺町に居を構え、アイガモ米作りや黒鶏の開発、棚田を使った水力発電、竹子(たかぜ)農塾の開講などに取り組み、「生活農業」を提唱する萬田正治氏(元鹿児島大学農学部教授、「小農学会」代表)を紹介している。
 山陽新聞は、岡山県矢掛町小田の山ノ上地区(人口43人。高齢化率ほぼ8割)を紹介している。当地区は、江戸時代から続く干し柿の里だが、御多分に洩れず後継者はおらず、耕作放棄地も漸増。しかし、新商品の開発や農事法人組合(原文ママ)を設立し、輸出も視野に入れている。この「元気集落」の取り組みから、「地域社会の『縮小』に悲観せず、新たな価値を盛り込むことを真剣に考える時だ」と、している。
 徳島新聞は、「高齢になりながら、一人何役もこなしている人たちの存在を忘れてはならない。そうした力が地域社会を支え、地域の可能性を広げている」とし、「サテライトオフィスや、仕事と暮らしを充実させる『半X半IT』といったモデルが、地方を励ます力にもなっている。徳島から持続可能なビジョンや新しい働き方を示していくことが大事だ」とする。
 秋田魁新報も、豪雪地帯などを中心に高齢世帯の生活を支える共助組織などによる、雪下ろし、買い物、病院への送迎などの住みやすい地域づくりを目指す自主的な動きに注目している。
 そしてデイリー東北は、地方が「自信を持つ」をキーワードに新しい活性化策を模索することと、「古里を見つめる私たち自身の目が問われていくことにもなる」と、地方人の眼力を強調する。
◆ブレない?読売、毎日、日経の三紙
「『反グローバリズム』の波が世界でうねりを増し、排他的な主張で大衆を扇動するポピュリズムが広がっている。国際社会は、結束を強め、分断の危機を乗り越えなければならない」で始まる読売新聞は、グローバリズム、アベノミクス、自由貿易拡大等々に対する従来通りの礼賛である。毎日新聞も日本経済新聞もほぼ同じ論調。なお日経は、トランプ氏へのTPP参加を粘り強く説くべき、と安倍首相にハードワークを求めている。
◆重視すべき生活実感と地域化(localization)という対抗軸
 地域に根ざし、人々の生活実感を重視した地方紙の姿勢には賛意を表する。元旦の社説でJAを取り上げていたものは確認できなかった。しかし大晦日の高知新聞は、〝【県1JA発足へ】農家のための組織目指せ〟というタイトルで、県内JAと県域組織が統合し2019年から一つの組織としてスタートすることを取り上げている。以下に示す書きぶりから、新生JAへの大いなる期待が伝わってくる。
(1)農家と共にあろうとする姿勢が欠かせない。個々の力は弱くても、助け合うことで生活と農業を守る相互扶助の精神が原点のはずだ。
(2)新組織が目指すべきは農家の役に立つ組織である。新規就農、家族経営、自由競争の中で利潤を追求するなど、さまざまな形の農家を支援して、多角的に農業振興に取り組んでいけば、存立基盤を固めることにも結び付こう。
(3)金融、食品・日用品・燃料の販売事業などを通じてJAが不可欠となっている地域もある。地域の将来にとって重要な存在である点も自覚してほしい。
 相互扶助の精神で農家と地域、そして農業を優先した組織運営が期待されている。重く受け止めるべし。
 そして全国のJAグループには、グローバル化が大手を振って闊歩する情況であるがゆえに、遠慮気味のグローカルではなく、地域化(localization)を対抗軸として前面に押し出す気概が求められている。
 「地方の眼力」なめんなよ
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