求められる信用事業の機能発揮2017年1月17日
平成29年の新年が穏やかに明けた。
昨年は、政府の進める「農業改革」の真のねらいが、規制改革推進会議なる「審議会」を使った「農協改革」であることが明白となった。
その中で、全農と農協の現場では、農畜産物販売力強化と生産資材価格の低減に注力しようとする矢先、さらに、信用事業の総合農協からの分離や「クミカン」の廃止など、農協の根幹に関わる提言を突如持ちだされ、めまぐるしく情勢が変化した年でもあった。
一方では、「協同組合」が、ドイツの申請により国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「無形文化遺産」に登録され、協同組合の価値が世界的な潮流として評価されたことは明るい材料となった。
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さて、平成29年は、政府の進める「農協改革」のいわば本丸である「総合農協からの信用事業分離問題」がクローズアップされてくると予想する。
このテーマは、日本農業新聞1月6日号、「点検/自己改革」欄において、滋賀県立大学の増田佳昭教授が、昨年12月に開催された新世紀JA研究会の課題別セミナーで、農水省経営局金融調整課の担当者が説明した「資料」をもとに解説されている。
その内容は、規制改革推進会議の提言の後、農水省の考え方を正式に伝えたものとして「注目」すべきものとされる。
増田教授によれば、農水省の農協信用事業に対する現状認識は、厳しい経営環境の下、危機打開策として、信用事業を総合農協から農林中金、信連へ譲渡することを考えてみてはどうかと提起しているところにあり、JAグループに「自ら考えてほしい」と検討を求めた点にある、としている。
その背景として、農村の少子高齢化や人口減少、相続による農村部から都市部への資金流出、住宅ローンに偏った貸出金、マイナス金利による収益悪化、バーゼル規制でせまられる自己資本増強、フィンテックの活用による金融店舗の必要性低下などが挙げられている。
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しかし、これら外部環境は、地方銀行、第二地銀、信用金庫、信用組合など地域金融機関全般にわたる環境変化であり、農協信用事業に限ったことではない。
ということは、金融庁が昨年9月に「金融仲介機能のベンチマーク」を発表し、金融機関が取り組むべき基本的な役割として、取引先に対する経営改善・成長力強化・事業再生・生産性向上への貢献、事業性評価に基づく融資の強化や地域経済への積極的なコミットメントなどに、しっかりと取り組むよう監督するとしたことと関連づけると、総合農協の信用事業を、農業を主な分野とする産業金融や地域金融での貢献力、信用事業の安定的持続力において、「機能不足、力量不足」と評価しているものと見て取れる。
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これまでの総合農協発展の歴史は、合併の歴史でもある。とすれば、その過程で、総合農協の機能が一定程度強化されてきたとはいえ、なお、組合員農家と地域農業・地域経済にとって、その貢献度合いや役割発揮が十分ではないと、政府から指弾されているとも言えよう。
先のセミナーおいて、農水省担当者は、農協信用事業の将来像について、「農業者と役職員の話し合いを通じて、しっかり結論を得る」よう求め、信用事業譲渡・代理店方式のメリットを説明したとあるが、デメリットの説明はなかったと聞く。
確かに、信用事業を身軽にし、販売農協、専門農協的な形態を指向、もしくは指向せざるを得ない総合農協が一定数あることは認識できる。
とは言え、われわれは、協同組合金融機関として、農業・食料・食品分野を中心とした産業金融面での役割、くらしの分野を中心とした地域金融における役割を、しっかりと定義し、どのような機能を備え、現場において発揮していくべきなのか。
その「機能像」を明確にして取り組むことが、力量不足との烙印を押されつつある今を脱却し、新たな「総合農協のあるべき姿」像に結実するものと考える。
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