【小松泰信・地方の眼力】手先のケイサン、目先のケイサン2018年5月16日
“あとがきのあと”というコーナで、與那覇潤氏の『知性は死なない』を紹介しているのは、日本経済新聞(5月12日)。興味深い内容だったのですぐに発注した。気になったのは“07年から15年まで地方公立大准教授…”という著者略歴。ウィキペディアで確認すると、愛知県立大学のようだ。正式名称で紹介しないのはなぜか。“地方の大学なめんなよ”って言われるよ。
◆経産官僚にはご用心
「安倍政権を支える実動部隊は経産省の官僚である」からはじまる山口二郎氏(法政大教授)の「本音のコラム」(東京新聞、5月13日)は、今井尚哉、柳瀬唯夫、藤原豊の名をあげ、経済産業省のあり方を厳しく批判している。「バブル崩壊後、経済成長の戦略を描くべき経産官僚は何一つ成功していない。経産省が執念も燃やす原発輸出にしても民間企業では背負えないリスクが広がっている。自分の本業がうまくいかないものだから、労働、農業、医療、教育など他の畑を荒らしに行って、それらの世界で長年存在したルールを壊し、新しいビジネスチャンスをつくることを自分たちの手柄にしようとしている」が故に、"諸悪の根源"と位置づけ、「経産省が日本をおもちゃにしていることを厳しく追及する必要がある」と、指弾する。
偶然であろうか、同じ紙面に、原発事故後も原発稼働を前提とする安倍政権のエネルギー政策を「反省がない」と批判するとともに、原発稼働を直ちにやめ、自然エネルギーへの転換を促進すべきとする、小泉元首相のインタビューが載っている。その中で氏もまた経産省や現首相を批難する。
政府が引き続き原発を基幹電源と位置づける見通しにあることを問われて、「反省がない。将来も20%分の原発を維持しようなんて。いまだに経産省幹部は、原発(を持つ電力)会社に天下りしているから」と、容赦がない。
この問題に関して安倍首相にはどう話しているのかと問われると、「『だまされるなよ』『経産省の言うことは全部うそだ』って言っている」が、首相は「苦笑して、反応しない」とのこと。話が通じない相手であることに、そろそろお気づきください。
やはり、経産省は大企業の手先となって、目先の利を追い求める諸悪の根源か。
◆GAPありきの制度変更はGAPにも迷惑
山口氏から、経産省に畑を荒らされていると指摘された農業の領域にも、やはりいかがわしき動きあり。
日本農業新聞(5月13日)によれば、農水省は2018年度に見直した「環境保全型農業直接交付金」の要件に、これまで交付対象だったエコファーマーを外し、代わりに「国際水準の農業生産工程管理(GAP)の実施」を義務付けた。具体的には、「国際水準GAPに関する指導・研修を受ける」「GAPの実施」「GAP理解度・実施内容確認書の提出」という、GAPありきの制度変更である。
エコファーマーとは、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」に基づき、環境と調和のとれた農業生産の確保を図り、農業の健全な発展に寄与することを目的として、土づくりと化学肥料、化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む計画を策定し、都道府県知事から認定を受けた農業者を指す。もちろん、「見直しはおかしい」と言う、エコファーマーからの不満の声はあがっている。
そもそも論で言えば、環境支払いは、11年度に地球温暖化防止や生物多様性保全の営農活動を支援する制度として創設された。この制度の趣旨に合致する交付要件は、持続農業法に基づき農薬や化学肥料を減らし、土づくりを進める農業者の方であろう。確かにGAPにも環境保全は含まれてはいるが、重みが違ってくる。
農水省は、要件からエコファーマーを外した理由として、生産者の高齢化などでエコファーマーの認定期間の5年を終えると更新しないケースが増えてきたこと等をあげ、「持続可能で環境保全型農業の拡大のためにはGAP導入の方が有益」(生産局農業環境対策課)と強調している。
しかし、グローバルGAP認証を取得したエコファーマーでさえ、「GAPは否定しないが要件とするには違和感があり、無理やり誘導している感がある」と語っている。要件変更についての事前説明会など、受給者への丁寧な説明はなされていないようだ。交付金を前提に経営計画が立てられているとすれば、計画変更が余儀なくされ、経営の不安定化を招くことになる。この上意下達的、強引な誘導によって、「肝心の環境保全型農業が置き去りになりかねないか」との心配は、絶対に杞憂では終わらない。
◆期待される中間団体としてのJA
同日の日本農業新聞には、今年度の同紙全国大会の模様が掲載されている。記念講演を行った佐藤優氏(作家、元外交官)は、JAを中間団体(注;個人の生活領域と国家をつなぐ領域。小松)と位置づけ、次のような概要で多くの期待を寄せている。
「民主主義が危機的状況にある中でJAは重要な役割を果たしている。モンテスキューは『法の精神』で、民主主義を守るには中間団体が大事だと指摘している。協同組合は中間団体である。個人のエゴを追求するのは問題だが、中間団体として集合的エゴを追求するのに問題は無い。農協が弱くなったら民主主義は弱くなる。農協は基本的に今の方向性で力を強くして進んでほしい。中間団体である協同組合は重要な役割を果たす。グローバル資本主義が行き詰まった後は、農本主義がもう一度見直される。協同組合主義が発展することが、農協のため、国民のため、日本のため、世界平和のためにもなると確信している」
記念講演故のリップサービスを割り引いても、裸の首相とその取り巻きによって民主主義が蹂躙されている今、弱者集団の農業協同組合が果たさねばならない役割は、極めて大きく、かつ重いことに多言は要しない。
◆子規の教え
西日本新聞(5月6日)の"永田健の時代ななめ読み"は、「地方紙は左寄りだ」という意見に次のような反論を加え、地方紙の立ち位置を宣明している。
「国策のひずみは往々にして地方に現れる。米軍基地にしろ原発にしろ、しわ寄せを食うのはたいてい地方である。高度成長期の公害もそうだった。その意味で、地方のメディアが国策の負の部分に敏感になり、時に国策と対峙するのは当然の成り行きである。特定の思想の影響ではなく『地方に拠る』という立脚点ゆえに、そうなるのだ。東京で物を考えているメディアや議員には分からないかもしれないが」
東京新聞(5月14日)のコラムは、地方から上京してきた正岡子規が、田んぼに植えられたばかりの苗が風にそよいでいる風景についての感じ方が、都会人夏目漱石とは異なることを痛感した、というエピソードを紹介している。そして子規は、都会人への処方箋として「鄙住居」(ひなずまい。田舎暮らし)を一度はしなければならぬと、氏の『墨汁一滴』に記したとのこと。
「地方の眼力」なめんなよ
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