【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(105)バングラデシュとパキスタン2018年11月2日
バングラデシュとパキスタンの2か国の歴史と特徴を理解しておくことは、アジアと世界の食料を理解する上でも重要である。
高校の世界史と地理を思い出して頂ければわかるように、16世紀にはムガール帝国の元で、また、その後はイギリス領インドの一部として18世紀にはコメやジュート(黄麻)の輸出等により空前の繁栄をし、「黄金のベンガル」と呼ばれた地域がある。ヒンドスタン平原の南部、ベンガル湾に流れ込む大河ガンジス下流のデルタ地帯である。
元々この地域の東部はヴァンガ、西部はガウルと呼ばれていたらしく、筆者は読んだことはないが古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」にもその名前が見られるという。東西を合わせて呼ぶ際には「バングラ」と呼ばれ、それが現在の国名の由来になったようだ。
さて、第二次世界大戦後、イギリス領インドが独立するにあたり、イスラム教徒の多い地域が1947年に東西に分離したパキスタンとして独立する。
※ ※ ※
その後、1971年、東パキスタンはバングラデシュとしていわば2度目の独立をする。筆者は小学生の頃の地図帳に出ていた東パキスタン、西パキスタンという表記をかすかに覚えている。外務省のホームページの表現を使えば、「インドからの分離独立は、宗教(イスラム)をアイデンティティの基盤に据えたものであったのに対し、1971年の独立は、ベンガルという民族を基盤に成し遂げられたものであった」という。
2018年時点で日本の約4割の国土に1.7億人がおり、ほぼ全員(98%)がベンガル人、言語もベンガル語である。宗教はイスラム教が9割弱、ヒンズー教が1割と少数のキリスト教徒などがいる。
余り知られていないが、バングラデシュは、中国、インド、インドネシアに次ぐ世界第4位のコメ生産大国であり、2018/19年度の生産量は3440万t(精米ベース)が見通されている。国内のコメ需要は高く、年間110万tの輸入もしている。また、小麦は、年間650万tを輸入し、アジアではインドネシアに次ぐ輸入国でもある。
一方のパキスタンは、2018年現在、日本の約2倍の国土に約2億人が住んでいる。バングラデシュがコメの大生産国であるのに対し、パキスタンは小麦の大生産国である。世界の小麦生産は、EU、中国、インド、ロシア、米国、カナダに次ぐ世界第7位だが、生産量は2018/19年度で2630万tが見込まれている。パキスタンではコメも日本の総生産量にほぼ等しい740万tが見込まれている。
※ ※ ※
ヒンズー教中心のインドを間に挟み、東西に1000Km以上離れた分離国家の統治は現実面では相当の困難に直面したであろうことは容易に想像がつく。地理的に離れているだけでなく、西はウルドゥ語、東はベンガル語という形で言語が異なり、公用語は両言語であったようだ。ここにコメと小麦という異なる食の基盤が加わる。簡単に言えば、距離、言語、文化、民族、さらに、日々の生活の中心である食の基盤がコメと小麦という形で異なる。こうした中でバングラデシュは1971年に多大な犠牲を払った上で独立したが、その後は政治的にも経済的にも厳しい状況が継続している。現在でも世界で最も人口密度の高い国の1つであると同時に、最貧国の1つとしても認識されている。安価な労働力を活用するため、多国籍企業が数多く進出していることでも知られ、我々が身に着けている衣類の中にもバングラデシュ産を多く見かけることができる。
※ ※ ※
それにしても、官庁や企業組織、はては大学や病院などにも中心と地方、本部と支部・出先のようなものがある。規模や環境、各種条件など様々な違いはあるが、筆者も地方住まいと分離キャンパスでの仕事が長くなった。Eメールや遠隔会議などはあるものの、日々のコミュニケーションとマネジメントの難しさを痛感する中で、まだ一度も訪問したことのないこれら2か国、バングラデシュとパキスタンの2か国のことを最近はよく考える。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【欧米の農政転換と農民運動】環境重視と自由化の矛盾 イギリス農民の怒りの正体と運動の行方(2)駒澤大学名誉教授 溝手芳計氏2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2024年4月26日
-
【注意報】麦類に赤かび病 県内で多発のおそれ 熊本県2024年4月26日
-
【注意報】核果類にナシヒメシンクイ 県内全域で多発のおそれ 埼玉県2024年4月26日
-
【注意報】ムギ類に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年4月26日
-
「沖縄県産パインアップルフェア」銀座の直営飲食店舗で開催 JA全農2024年4月26日
-
「みのりカフェ博多店」24日から「開業3周年記念フェア」開催 JA全農2024年4月26日
-
「菊池水田ごぼう」が収穫最盛期を迎える JA菊池2024年4月26日
-
「JAタウンのうた」MV公開 公式応援大使・根本凪が歌とダンスで産地を応援2024年4月26日
-
中堅職員が新事業を提案 全中教育部「ミライ共創プロジェクト」成果発表2024年4月26日
-
子実用トウモロコシ 生産引き上げ困難 坂本農相2024年4月26日
-
(381)20代6割、30代5割、40/50代4割【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月26日
-
【JA人事】JA北つくば(茨城県)新組合長に川津修氏(4月20日)2024年4月26日
-
野菜ソムリエが選んだ最高金賞「焼き芋」使用 イタリアンジェラートを期間限定で販売2024年4月26日
-
DJI新型農業用ドローンとアップグレード版「SmartFarmアプリ」世界で発売2024年4月26日
-
「もしもFES名古屋2024」名古屋・栄で開催 こくみん共済coop2024年4月26日
-
農水省『全国版畜産クラウド』とデータ連携 ファームノート2024年4月26日
-
土日が多い曜日まわり、歓送迎会需要増で売上堅調 外食産業市場動向調査3月度2024年4月26日
-
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2024年4月26日
-
淡路島産新たまねぎ使用「たまねぎバーガー」関西・四国で限定販売 モスバーガー2024年4月26日