【浅野純次・読書の楽しみ】第39回2019年6月20日
◎森功
『官邸官僚』
(文藝春秋、1728円)
現政権になってから官邸パワーは驚くほど強化されました。安倍一強は自民党内部の力関係でもありますが、強力無比の官邸とセットになっての話といえるでしょう。これは、その内幕本です。
本書は、官邸を取り仕切る今井尚哉政務秘書官の豪腕ぶりから始まります。経産省で原発畑を歩み安倍首相の信頼が絶大なことが力の源泉のようですが、政務秘書官という立場は5人の事務秘書官の上に立つ、官邸の最高権力です。
その上には首相と官房長官しかいませんが、両者の信頼を得ている限り絶対的権力者と言っても過言ではありません。その力は中ロなどとの外交関係にまで及びます。外務省もまさに顔色なし、です。
その他の秘書官も首相の権威をバックに霞が関に睨みを利かせています。その背後には主要官僚人事を差配する内閣人事局があります。そして誰もが一目置かざるをえない官邸ポリスも。そうした官邸内官僚たちの実力、思惑、関係などが丹念に掘り起こされます。
政治家の動静よりも官邸内部の動向が日本を左右しているとさえ思わせる一部始終には引き込まれます。側近政治の罪は重大であり、首相の分身か化身かとさえ言われる人たちの素顔を描いた、見逃せない一冊です。
◎日本植物病理学会
『植物たちの戦争』
(講談社ブルーバックス、1080円)
これも植物は賢いという類いの本かもしれません。副題は「病原体との5億年サバイバルレース」、帯には「動けない植物の仰天の戦略」とあります。
畑の土4グラムの中には100万種類、80億もの微生物がいるのだそうで、その微生物たちは植物のためになる場合もあれば、さまざまな病気を引き起こしもします。
普通は動くほうが有利、動けないほうは不利ですが、病原体に攻めこまれるままじっとしていては植物も勝ち目がないので、絶妙な手段を講じます。
(1)植物表層には病原菌は付着しにくいので侵入経路を防ぐ(2)抗菌性物質を作り出す(3)病原菌を巻き込んで焦土戦術を企む(4)病原菌を兵糧攻めする。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、詳細は本書でどうぞ。
病原菌と植物との戦いは一対一というよりも集団対集団の関係であるという説明も面白い。これは農業関係者にも大いに参考になる話でしょう。専門的な説明が続くので、その点、含んだうえ買い求めてください。
◎垣谷美雨
『農ガール、農ライフ』
(祥伝社文庫、745円)
著者の『老後の資金がありません』をこの欄で紹介しましたが、この本も展開も語り口も達者なものです。
付き合っていた男と別れ、裏切りにあい、住むところも見つけられない33歳の女性が、意を決して農業の世界に飛び込む話。県立農業大学校で半年間、学び、農業を始めようとするのですが、農地もアパートもなかなか貸してもらえず、やっとのことで始めた野菜作りもちっとも儲けにつながりません。
婚活パーティに行っても理想の男には振られ、うだつが上がらぬことばかり。しょげたり、励まされたり、ちょっと元気になったりの連続ですが、周りの女たちの生態も面白く、最後は希望が持てそうな余韻を残して大団円へ。落ち込みがちな女性に元気をくれる小説と言いましょうか。
農家の人たちが無気力だったり自分勝手だったりというステレオタイプな決め付けが気に入りませんが、そこさえ乗り越えれば面白く読めるはずです。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】てんさいの褐斑病が早発 早めの防除開始を 北海道2025年7月2日
-
日本の農業、食料、いのちを守る 「辛抱強い津軽農民」立つ 青森県弘前市2025年7月2日
-
「食と農をつなぐアワード」募集開始 優良な取組を表彰 農水省2025年7月2日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」JAおきなわ食菜館「とよさき菜々色畑」へおつかい JAタウン2025年7月2日
-
三菱マヒンドラ農機 ペースト施肥、紙マルチ田植機、耕うん作業機の販売強化2025年7月2日
-
外来DNAをもたないゲノム編集植物 作出を大幅に効率化 農研機構2025年7月2日
-
「2025年度農業生物資源ジーンバンク事業シンポジウム」開催 農研機構2025年7月2日
-
創立100周年記念プレゼントキャンペーン第3弾を実施 井関農機2025年7月2日
-
住友化学園芸が「KINCHO園芸」に社名変更 大日本除虫菊グループへ親会社変更2025年7月2日
-
フランス産牛由来製品等 輸入を一時停止 農水省2025年7月2日
-
【人事異動】ヤンマーホールディングス(7月1日付)2025年7月2日
-
長野県、JA全農長野と連携 信州産食材使用の6商品発売 ファミリーマート2025年7月2日
-
地域共創型取り組み「協生農法プロジェクト」始動 岡山大学2025年7月2日
-
埼玉県産農産物を活用「Made in SAITAMA 優良加工食品大賞2026」募集2025年7月2日
-
黒胡椒×ごま油でおつまみにぴったり「堅ぶつ 黒胡椒」新発売 亀田製菓2025年7月2日
-
近江米新品種オーガニック米「きらみずき」パレスホテル東京で提供 滋賀県2025年7月2日
-
外食市場調査5月度 2019年比96.9% コロナ禍以降で最も回復2025年7月2日
-
王林がナビゲート 新CM「青森りんご植栽150周年」篇を公開 青森県りんご対策協議会2025年7月2日
-
飲むトマトサラダ 素材を活かした「カゴメ野菜ジュース トマトサラダ」新発売2025年7月2日
-
愛知県豊田市と「市内産業における柔軟な雇用環境の実現にむけた協定」締結 タイミー2025年7月2日