【熊野孝文・米マーケット情報】3点セット銘柄の価格変動をカバーする方法とは2019年7月2日
「秋田あきたこまちの売り物はないね。値段だけが上がっている感じかな」とコメの仲介業者が半分呆れたような口ぶりで話す。そうした口ぶりになるのも無理はなく、ここ一ヶ月足らずで60㎏当たり2000円以上値上がりしているのだから仲介業者もこの急激な変化についていけない。
以前、この欄で秋田あきたこまちは2番手銘柄で上値にも限界があると指摘したことがあったが、こうした見方が全く当てはまらないような状況になっている。秋田あきたこまちは家庭用精米として量販店等で販売される割合が高い産地銘柄で、いわゆる3点セット(産地、年産、品種)が必須である。30年産米の検査はほぼ終了したが、秋田あきたこまちの数量を見ると26万2069tになっている(3月末)。29年産の同時期の検査数量が26万8335tだったのでわずかながら減少している。
ただ、先行して急騰した新潟コシヒカリが約1割減少したのに比べれば、それほど大きく減少しているわけではない。POSデータから推計した年間必要な3点セットの秋田あきたこまちの数量は28万5000tなので足りないことは足りないのだが、これほどまでに急騰する要因としては考えづらい。なぜなら納入業者も精米の値上げが受け入れてもらえなければ、割安な代替品を提案するという術もあるのだから採算ラインから2000円も高い玄米を手当てしなければならない理由としては希薄である。にもかかわらず、もっと驚くべきことが起きている。商品取引員に直近の合意早受け渡しの成約状況を聞くと「秋田あきたこまち1等が1万8100円で成約した」と言うのだから、しばらく声が出なかった。
合意早受け渡しとは、取引員を通じてコメ先物市場に売り買いの建て玉を持っている当業者が合意すれば先物市場の価格に関わらず、合意した価格、数量、受渡場所で取引が成約するという仕組みで、この取引員は当業者の利便性を図るべく、自社のホームページに売り買いメニューを掲載しており、その件数は売り買い双方で100産地銘柄を超すまでになっている。
商品取引員がコメの現物仲介業者以上の売り買いメニューを提示するまでになっていること自体に特異性を感じざるを得ないが、それで毎日のように成約しているのだからコメの価格形成はこの取引員が担っているのではないかと思えるぐらいである。この取引員はさらに当業者にとって利便性の高い取引手法を提案している。それは売り人が希望する価格、買い人が希望する価格で1年にわたり受け渡しが可能になるという仕組みである。なぜそうしたことが可能になるのか?
◇ ◇
合意早受け渡しの成約は、コメ先物市場に建て玉のポジションを持っている当業者間で行うというのが大原則である。当業者は取引員に口座を開設して、売り買いの玉を建てた時点で証拠金を積む。これによって日々の値動きを(株)日本商品清算機構(JCCH)が値洗いすることで信頼できる取引が可能になるとともに代金の支払いが100%担保される。合意早受け渡しの現物であっても取引所を通すことによってこれが担保されるという仕組みになっている。つまりコメ先物市場で売り買いのポジションを建てれば期日納会で現物の受け渡しを行わない以上、売り玉は買戻し、買い玉は売り戻すことによって清算される。
このことから先物市場は、正確には先物清算市場と言われるゆえんである。そうした仕組みがあるので先物市場に売り買いのポジションを建てれば、一年間の期間限定で自らが望む価格、数量での取引が可能になる。
30年産米の新潟コシヒカリ、秋田あきたこまちという家庭用精米の2大銘柄の異常とも思える値上がりは、3点セットでの販売を行っている当業者のリスクの高さをまざまざと見せつけられた格好だが、リスクヘッジが可能なコメ先物市場に加え、どのような産地銘柄でも先行きの取引が可能な「先渡し延べ取引市場」があれば、双方をリンクさせることによって価格変動が平準化される。こうした市場がない限り事前契約で買い手が求めるコメを生産しても取引が機能することはない。計画経済的なコメの制度はすでに破綻しているにもかかわらず、それをさらに推進しようとしていること自体に無理がある。世界で最も進んだ市場取引を考えついたのは日本人なのだから、もとに戻して価格形成は市場に任せるようにしたら良いだけの話である。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲の本田防除(1)育苗箱処理剤が柱2025年6月17日
-
【サステナ防除のすすめ2025】水稲の本田防除(2)雑草管理小まめに2025年6月17日
-
米 収穫量調査 衛星データなど新技術活用へ2025年6月17日
-
価格高騰で3人に1人が米の消費減 パンやうどん、パスタ消費が増加 エクスクリエの調査から2025年6月17日
-
【JA人事】JA中野市(長野県) 望月隆組合長を再任2025年6月17日
-
備蓄米の格安放出で農家圧迫 米どころ秋田の大潟村議会 小泉農相に意見書送付2025年6月17日
-
深刻化するコメ加工食品業界の原料米確保情勢【熊野孝文・米マーケット情報】2025年6月17日
-
2025年産加工かぼちゃ出荷販売会議 香港輸出継続や規格外品の試験出荷で単収向上を JA全農みえ2025年6月17日
-
2024年産加工用契約栽培キャベツ出荷販売反省会を開催 旬別出荷計画の策定や「Z-GIS」の導入推進を確認 JA全農みえ2025年6月17日
-
和歌山「有田みかん大使」募集中 JAありだ共選協議会2025年6月17日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第110回2025年6月17日
-
転職希望者対象に「農業のお仕事説明会」 6月25日と7月15日に開催 北海道十勝総合振興局2025年6月17日
-
「第100回山形農業まつり農機ショー」8月28~30日に開催 山形県農機協会2025年6月17日
-
北海道産赤肉メロン使用「とろける食感 ぎゅっとメロン」17日から発売 ファミリーマート2025年6月17日
-
中標津町と繊維リサイクル推進に関する協定締結 コープさっぽろ2025年6月17日
-
神奈川県職員採用 農政技術(農業土木)経験者募集 7月25日まで2025年6月17日
-
【役員人事】ノウタス(6月17日付)2025年6月17日
-
「九州うまいもの大集合」17日から開催 セブン‐イレブン2025年6月17日
-
農薬出荷数量は1.5%増、農薬出荷金額は2.8%増 2025年農薬年度4月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年6月17日
-
中国CHERVON社と代理店契約 EGO製品の国内販売を開始 井関農機2025年6月17日