【浅野純次・読書の楽しみ】第110回2025年6月17日
◎藤原帰一『世界の炎上』(朝日新書、990円)
毎月、原則第3水曜の朝日夕刊2面に大きめのコラム「時事小言」があり、楽しみにしています。本書は過去5年分、61本をまとめたものです。5年も前の評論を今さらとお考えの方もいるかもしれませんが、いやいやどうして、決して古びていないのはさすがです。
著者の国際政治を見る目が確固とした政治哲学ともいうべきものに立脚しているからこそ、少し前の事象でも今に通じる論説となりえているのでしょう。ついでにいえば、2020年はトランプ第一期政権の末期であり、そこでの批判的考察は今なお新鮮です。
その意味でも、主役はやはり米国です。世界の秩序を守る立場を自負してきた米国が、覇権からの自主的な離脱と自国主義へと転じた歴史の新たなステージはさまざまな角度から理解する必要があり、本書はその多面的かつ明解な解説書となってもいます。
22年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まったおかげで本書で最も取り上げられるテーマの一つがウクライナ戦争とプーチン的思考であり、日米同盟、NATO、QUAD、日中対話などを通じて日本の世界における役割が論じられます。「世界の中の日本」を教えられ、考えさせられる貴重な一冊としてお薦めします。
◎小林貞夫『今日誰かに話したくなる野菜・果物学』(エクスナレッジ、1870円)
植物とは面白くて不思議な生き物であり、ある意味では動物以上かもしれない。そんな感想さえ抱かされる「植物の秘密」の本です。「野菜・果物学」とありますが、草木も多少は取り上げられます。
内容は「大きさ、重さ、長さの驚異」「観察で知る植物の不思議」「科で知る植物」「突然変異と新品種」「毒草の見分け方」などからなりますが、長さ59センチで重さ3・5キロの巨大エリンギ、長さ1メートルを超える大塚人参、重さ1キロ余の愛宕梨、などにまず驚かされます。
科も面白い。ゴボウがキク科、玉ねぎがヒガンバナ科、ピーマンがナス科とは不覚にも知りませんでした。新品種では突然変異が重要ですが、特に「偶発実生」は必読の価値ありです。もちろん交配も解説されています。
毒の話も多彩ですが残念ながら省略するとして、全篇、カラー写真とかわいいイラスト(小林奈々、著者のお嬢さんだとか)で埋め尽くされた、とても魅力的な書籍になっています。眺めるだけで楽しめる一冊です。
◎松山みゆ『幸せな方の椅子』(大和書房、1650円)
兼業主婦だった著者は37歳のとき、相思相愛の夫に希少ガンのステージ4という悲劇が襲います。動転しながらも7歳の息子のためにも頑張らなくてはと気を取り直すものの、心の持ち方では思い悩む毎日でした。
ある日、友人からの助言で気持ちががらりと変わります。そして「不安を感じながら病室の夫の前に立つ」という救いのない「椅子」よりも、「相手のことを考えながら、自分にできそうなことをすることで、互いが幸せになれればいい」という「幸せなほうの椅子を選ぶ」ことに決めた、というのです。おかげで夫や息子も明るく振る舞い始め、好循環が生まれていったとか。
人生、心の持ちよう次第とはよく言われますが、厳しい現実の中の親子3人の物語は、家族の病気にとどまらず、仕事の上での悩みなどに直面したときなどにも大いに参考になりそうな内容です。ほんとに心の持ちよう一つだということを改めて知らされました。
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