【熊野孝文・米マーケット情報】コメ価格上昇に不安を覚える生産者2019年11月26日
20日に農水省が開催した食糧部会。この中で農水省は令和2年度(2年7月~3年6月)の主食用米需要量を717万tと見通していることを示した。今年度に比べちょうど10万t消費量が減少すると見込んでいる。
部会では需要者側から「コメの価格が上がれば消費者の購入も減る。5年続けて上昇しているので、価格を下げる政策も考えて欲しい」という意見ばかりでなく、生産者側からも「価格が高いのは助かるが、上がることで消費が減るとなると、目の前の利益でお客さんを逃がしているとの不安を感じる」といった意見さえ出た。
食糧部会でコメの消費が減ると伝えられるのは毎度のことで珍しい事ではないのだが、平成の30年間で250万tも減ったことを見れば、コメの生産者でなくてもこのままコメを作っていて大丈夫なのか? という不安の声が上がるのも無理はない。
農水省は国内でのコメ需要減見通しのデータだけではなく、世界の穀物需要の見通しも作っている。基のデータはUSDAのものだが、コメの欄をみると2010年の世界のコメ需要量は4億4400万tであったが、これが2050年には7億6000万t、実に1.7倍に増加すると海外食料需給リポートに記載している。国内のコメ需要は減少するが、世界に目を向ければコメ需要は年々増大する。なので輸出しましょう! ということで旗振りを始めたのは実にわかりやすい。ただし、輸出を伸ばすためには競合国との競争に勝たねばならず、そのためには生産性を上げる必要がある。飛行機で種子を播いているアメリカの反当りの収量は毎年伸び続け、玄米換算で670㎏を超えるまでになっているほか中国も日本を追い抜いている。
日本はこれまで食味重視で反収を犠牲にしていたので収量が上がらなかったと言われてきたが、では、単位当たりの収量が上がるほど助成金が多く支給される飼料用米はどうかというと、10a当たりの平均収量は平成26年が 554㎏、27年555㎏、28年558㎏、29年549㎏、30年538㎏となっており、横ばいどころか2年連続して減収になっている。飼料用に作付される多収品種の作付割合は29年に初めて50%になり、30年は56%にアップしたというのに逆に反収が落ち込んだというのは一体どういうわけなのか?
飼料用米の生産コスト目標は「今後10年間で担い手の飼料用米の生産性をコスト削減や単収増(759㎏/10a)により平成25年全国平均比2倍に向上(担い手の60㎏当たり生産コストを5割程度低減(約7615円))」と明記されている。
研究者の中には以下のような指摘をする人もいる。
「現在、農政において米価維持の効果を最も強く発揮しているとみられる施策が、飼料用米の生産に対する財政的支援である。政府がこれを縮小し、市場の価格形成機能に基づく米価の低下を従来よりも許容していくことは、高米価の矛盾や問題点の解消を図るうえでも、農業者の経営努力を促すうえでも、効果的な方法であると考えられる」とし、2つの改善点を示している。
1つは飼料米に対する財政支援の在り方で、収量払いとは別に産地交付金も支払われており、重複する必要があるのかという指摘と、もう1つは、収量払いにおいては地域の標準反収が基準になっており、生産効率上望ましくないという指摘である。
収量払いの交付金の支給では、同じ10a当たり450㎏を収穫したとしても最低額の5万5000円しか受け取れない地区もあれば10万5000円を受け取れる地区も出てくる。地区の標準反収にはそれほどの違いがあるという例だが、その結果どういうことが起きるかというと、標準反収が高い地区で最高額の10万5000円を得るためには反750㎏程度の収量を上げなくてはならず、極めてハードルが高い。そんなことをするより飼料用米を作付したという形だけで最低の5万5000円だけ受け取るという生産者も出てくる。
飼料米の反収が2年連続して落ち込んだ原因にはこうした要因も考えられるのである。
そもそもの制度設計のあり方からして、主食用ではないとの理由で飼料用に仕向けるコメに対して転作作物扱いにして他の転作作物の助成額を大幅に上回る助成金を支給する必要があるのかという点である。
コメ全体の生産性を上げるためには主食用だとか加工用だとか飼料用だとかという括りを法で縛っていては用途に見合った需要と供給の関連が遮断されるだけで、生産性が上がるはずがない。需要と供給はマーケットに任せてそれぞれの用途に合わせた価格形成が出来るようにして流通を健全化させない限り、日本のコメが産業として成り立つはずがない。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】てんさいの褐斑病が早発 早めの防除開始を 北海道2025年7月2日
-
日本の農業、食料、いのちを守る 「辛抱強い津軽農民」立つ 青森県弘前市2025年7月2日
-
「食と農をつなぐアワード」募集開始 優良な取組を表彰 農水省2025年7月2日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」JAおきなわ食菜館「とよさき菜々色畑」へおつかい JAタウン2025年7月2日
-
三菱マヒンドラ農機 ペースト施肥、紙マルチ田植機、耕うん作業機の販売強化2025年7月2日
-
外来DNAをもたないゲノム編集植物 作出を大幅に効率化 農研機構2025年7月2日
-
「2025年度農業生物資源ジーンバンク事業シンポジウム」開催 農研機構2025年7月2日
-
創立100周年記念プレゼントキャンペーン第3弾を実施 井関農機2025年7月2日
-
住友化学園芸が「KINCHO園芸」に社名変更 大日本除虫菊グループへ親会社変更2025年7月2日
-
フランス産牛由来製品等 輸入を一時停止 農水省2025年7月2日
-
【人事異動】ヤンマーホールディングス(7月1日付)2025年7月2日
-
長野県、JA全農長野と連携 信州産食材使用の6商品発売 ファミリーマート2025年7月2日
-
地域共創型取り組み「協生農法プロジェクト」始動 岡山大学2025年7月2日
-
埼玉県産農産物を活用「Made in SAITAMA 優良加工食品大賞2026」募集2025年7月2日
-
黒胡椒×ごま油でおつまみにぴったり「堅ぶつ 黒胡椒」新発売 亀田製菓2025年7月2日
-
近江米新品種オーガニック米「きらみずき」パレスホテル東京で提供 滋賀県2025年7月2日
-
外食市場調査5月度 2019年比96.9% コロナ禍以降で最も回復2025年7月2日
-
王林がナビゲート 新CM「青森りんご植栽150周年」篇を公開 青森県りんご対策協議会2025年7月2日
-
飲むトマトサラダ 素材を活かした「カゴメ野菜ジュース トマトサラダ」新発売2025年7月2日
-
愛知県豊田市と「市内産業における柔軟な雇用環境の実現にむけた協定」締結 タイミー2025年7月2日