【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第79回 リヤカー、自転車の利用の普及2019年12月12日
前にもちょっと触れたが、昭和初期には牛馬車に加えてリヤカーによる運搬も普及しつつあった。
リヤカー、見たことのない若い方もおられるのではなかろうか。大正末期に日本で開発されたもの、私などはさすが日本人、よく考えたものと思うのだが、人力による牽引という点では大八車と同じであり、改良大八車ということもできよう。大八車よりはかなり小さく、少量しか運べないことが難点といえば難点だったが、これは便利だった。まず軽かった。木製ではなく、車体は鉄製のパイプ、車輪は空気入りタイヤで構成されているからである。女子どもでも十分に動かせる。
もちろん、リヤカーも人力、人間が引いて歩くわけだから大八車より速いとはいっても基本的には徒歩と変わりはない。
ただし、当時普及しつつあった自転車の後ろにつないで走ることができるので、自転車の速度までは出すことができた。だから大八車はもちろん牛馬車よりも早かった。しかし荷物が重いときには降りて引っ張って歩かなければならなかったので、そのときは徒歩と同じ速度となった。
また運ぶ量も限られる。だから荷物が大容量・重量のときは牛馬車が中心で、リヤカーは補助用となる。つまり、リヤカーと牛馬車は併存して利用された。
なお、リヤカーは都市部でも使われ、とくに中小の商工業者には必需品となっていた。
私も自転車+リヤカーで畑作業を手伝ったものだった。家から出かけるときは、竹かごや木箱などの容器とか鍬鎌とかしか積んでないから、きわめて軽快である。ただ当時は未舗装の凸凹道路だったから、ガタガタと音はうるさく、載せたものが揺れて落ちないように気をつけなければならなかった。帰りには祖父や両親といっしょに収穫したトマトやナスなどの野菜を山のようにリヤカーに積む。そしてそれを家に運ぶ。かなり重く辛い。上り坂では自転車が動かなくなる。降りて引っ張る。ちょっとした上りでしかないのだが、もう汗だくだ。ようやく上りきって平らな道になるとまた自転車に乗り、足に思いっきり力を入れてペダルを踏む。
家に着くとほっと一息、リヤカーから野菜を下ろしてそれから小屋で選別、箱詰めなど、朝の出荷の準備だ。これが戦後すぐのころの私の夏休み期間の毎日の仕事だった(なお、箱詰めされた野菜は翌朝父の牽く牛車に乗せられて山形駅に運ばれ、貨物列車で東京や仙台に送られた)。
自転車だけで運搬することもあった。小さな荷物だったら後ろについている荷台につけて運べるようになっていたからである。これは速いし、楽でもある。とはいっても、手に持てるくらいの、せめて背中に背負うくらいの量しか載せられない。ここに限界があるが、ともかく便利だった。
私の生まれたころの1930年代は自転車もリヤカーも高価だった。持っていない農家の方が多かった。郵便配達も徒歩でやっていた時代だった。前にも述べたように、牛馬車となると一定の経営面積をもつものしか持てなかった。
さらに、雪国では大八車や牛馬車、リヤカー、自転車は冬期間使えない。馬(牛)そり、人間の引くそりを利用する以外なかった。
このような問題があり、また人力、畜力という限界はあったが、ともかくこれらは生産・生活両面での利便性を大きく高めたことはいうまでもない。
ところで、自転車はそもそも人が乗るためにつくられたものである。今述べた運搬は本来からいえば副次的な利用法でしかないが、人間の自由な移動に徒歩しかなかった時代、自転車は本当に便利なものだった。しかもかなり狭い道でも自由に走ることができる。私の父は毎日の田んぼの水の見回りの時や一人で田畑の手作業に行く時に自転車を利用していた。
言うまでもなくリヤカーはそもそも荷物運搬のためにつくられたものである。しかし、人を乗せて運ぶこともあった。病人が出た場合、リヤカーに布団を敷いて病人を乗せ、病院に運ぶなどがその典型例だ(大八車も同じで、このように使われたことがあったらしい)。
私も乗せてもらったことがある。小学校のころ、捻挫して歩けなくなったとき、祖父がリヤカーに私を乗せて骨接ぎに連れて行ってくれたことが二度ばかりあった。
私が乗せて走ったこともある。高校に入ったばかりのころ、夜中に祖父の姉の死が知らされた。それで自転車につけたリヤカーに祖父を乗せ、真っ暗な田んぼの中の県道を、自転車のライトの明かりを頼りに走って連れて行ったこともある。
なお、祖父は自転車に乗れなかった、というより乗らなかった、当時の年寄りはみんなそうだった。若い娘や嫁さんなどはみんな乗った。もんぺをはいてだったが。
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