【小松泰信・地方の眼力】ヤジにも空疎な言葉にも「農」を貫け2020年1月29日
2019年11月8日の参院予算委員会。立憲民主党の杉尾秀哉氏の質問に際し、杉尾氏を指さしてバカ丸出しで「共産党」と発言し、審議を一時ストップさせたのは誰あろう、安倍晋三首相。杉尾氏にはもちろんのことであるが、公党である日本共産党に対しても失礼千万な話。そんな輩が押し込んで当選させた女性議員がまたしてもアホ丸出しのヤジ。
◆多様性を認め合え
毎日新聞(1月24日付)によれば、22日の衆院本会議における代表質問で、国民民主党の玉木雄一郎代表が選択的夫婦別姓を認めるべきだと質問した際に、本会議場から女性の声で「だったら結婚しなくていい」とのヤジが飛んだ。複数の議員がヤジの主と指摘したのが件の杉田水脈議員。翌23日、少なくとも5回報道陣の前に姿を現したが、質問には答えず、携帯電話を耳にあて続けるなどして立ち去ったとのこと。違うなら違うと言えば良いだけのこと。普通、濡れ衣なら怒って否定するはず。あっそうか、普通じゃなかったよね、彼女は。冷静に考えれば、自民党の頭(かしら)が普通じゃないからミオちゃんレベルが普通なわけないか。
西日本新聞(1月24日付)は、世の中にも賛否両論がある夫婦別姓問題について、結婚さえしなければ考える必要もないだろうと、論理を乱暴に飛躍させてしまっている点に、「入り口から議論を否定してしまう、自民党の一部にある体質だ。それが最も良くない」と、やじの病根を示唆する閣僚経験者のコメントを紹介している。
北海道新聞(1月25日付)の社説は、「自民党はうやむやにしたいようだが、言論の府にあるまじき低劣なやじを見過ごしてはならない」とし、「家族の在り方は多様化している。結婚を望んでいても夫婦同姓に理不尽さや疑問を感じる若い人は少なくないだろう。働く女性にさまざまな不便を強いてもいる。そうした声に耳を傾け、政策に生かすのが政治家の務めである。無理解な発言は憲法が保障する個人の尊厳を踏みにじるものだ」と指弾する。そして、「名指しされた杉田氏が沈黙しているのは不可解だ。事実無根であれば反論すべきではないか」とする。
首相が今回の施政方針演説で「誰もが多様性を認め合い、その個性を生かすことができる社会をつくる」と訴えたことを取り上げ、「自民党内には伝統的家族観にこだわり、導入に反対する根強い意見がある。首相の本音はこちらに近いのだろう。多様性を口にしながら、実行が伴わない政権の矛盾が改めて問われている」との指摘には、溜飲が下がる。
◆防災における基本的人権
「多様性を認め合う」といえば、毎日新聞(1月19日付)は、同紙が2019年11月に都道府県、道府県庁所在地、政令市、東京23区(計121自治体)に対して行ったアンケート調査(119自治体が回答)から、次のような問題点を指摘している。
ひとつは、災害時の対応を定めた地域防災計画や避難所運営マニュアルなどに、LGBTを含む性的少数者への「配慮」を盛り込んだ自治体は28で、「検討していない」自治体が43にも上ることである。ただし、「誰でも使える(男女共用)トイレ、更衣室の設置」(徳島市)、「下着などの物資の配布についての配慮」(名古屋市)など、具体策を挙げて促進を図る自治体もあった。
もうひとつは、性的少数者のカップルが、同居の親族と同様にパートナーの安否情報を得られる自治体は16であること。「検討していない」や「議論できない」といった回答が目立ち、当事者はパートナーが死亡するなどした場合でも情報を得られない恐れがあることを指摘している。
山下梓氏(弘前大男女共同参画推進室助教、国際人権法)は、「性的少数者は地域、年代を問わず、見えるか見えないかにかかわらず必ずいる。自治体は避難所などでの配慮のニーズを積極的にとらえて取り組むべきだ。パートナーは本来家族として扱われるべき関係で、災害時の安否照会の制度設計に組み込まれていないのは問題だ」と、コメントを寄せている。
◆ジェンダー不平等社会に風穴を開ける
第65回JA全国女性大会が1月22、23日に開催された。日本農業新聞(1月24日付)によれば、23日には国崎信江氏(危機管理教育研究所代表)による防災に関する講演を聞き「応急手当の方法など、みんなで学ぶ仕組みをつくる」など、地域に根差すJA女性組織だからこそできる活動を考え、今後一層の活動強化に向けて情報を共有したとのこと。
講演要旨で注目したのは、「高齢化が加速しており、周りは老年者、要配慮者が多くなっている。......地域の防災意識向上には、女性の関わりが重要。女性が主体的に防災イベントの企画、参画を促し、関心を高めてほしい」と言うくだり。
「要配慮者」には前述の性的少数者も含まれる。ゆえに、JA関係者であろうが無かろうが、これまで災害時、とりわけ避難所において「トイレ」「風呂」「着替え」「就寝や授乳」等々への無配慮、それに関連した「セクハラ」に苦しんできた女性が、やっと堂々と配慮を求める地位を獲得できる状況にあることに期待するからである。
第64回大会から、SDGsを強く意識した組織活動に取り組んできた。そのSDGsが掲げる17の目標の5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」があげられている。
彼女たちの力で、ジェンダー不平等社会とされる「農」の世界に風穴が開くことを期待する。
◆中身はないが空疎ではない?
「安倍晋三首相の施政方針演説を聞いた。案の定、いかにも内容が空疎に感じた」と厳しい指摘で始まるのは、柴田明夫氏(資源・食糧問題研究所代表)による日本農業新聞(1月27日付)の論点。「安倍首相は、自画自賛ばかりで反省がなく危機感もない」とバッサリ。現在検討が進められている、新たな「食料・農業・農村基本計画」においては、「現実と目標との大幅な隔たりがなぜ生じたのか、真摯な分析と抜本的な検討が必要だ」として、「もはや単なる期待値として目標を掲げることは許されない」とする。
山田優氏(日本農業新聞特別編集委員)も、同紙(1月28日付)で『空虚な施政方針演説』と題して、「農業が直面する課題と信念を自らの言葉で語り、堂々と野党との論戦を挑むのが、本来の仕事のはずだ」と、その姿勢を質す。そして、「いつの間にか日本も輸出国気取りになってしまった」と嘆き、「農産物輸出を針小棒大に語ることは国民に対して不誠実であり、日本の農業の未来に禍根を残すだろう」と、憂慮の念を記す。
安倍首相を巡る最もホットな笑い話は、1月28日の衆院予算委員会における「桜」関連の宮本徹議員(日本共産党)の質問に対して、彼が「(参加者を)幅広く募っているという認識で、募集しているという認識ではなかった」と答えたことである。
「募ってはいるが、募集ではない」なんて、中身のないこんなレベルの人に、「農」の話はNO!
「地方の眼力」なめんなよ
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