【熊野孝文・米マーケット情報】コメの流通・取引の在り方を変える新型コロナウイルス2020年4月7日
とどまることのない新型コロナウイルスの影響。コメ業界でもその影響は国内だけではなく海外向け輸出にも広がっている。
カリフォルニアの日系食品スーパーに日本産米を輸出しているコメ卸には現地のスーパーから「至急日本産米を送ってほしい」という依頼が来たという。カリフォルニア州でも食品の買いだめ騒ぎが起きており、コメも足りなくなっている。そうかと思うとニューヨークに店頭精米の店舗を構えて日本産米を販売している輸出業者によると、ニューヨークでは非常事態宣言が出され、レストラン等も店を閉めたことから需要がガタ減りで今後の見通しも立っていない。そこまで行かなくてもシンガポール向けに輸出している米卸によると現地に港では検疫のため既に送った分が滞留しているという。
コメの加工食品として輸出の伸びが期待されているパックご飯は、輸出拡大を視野に入れ、年間4200万食の製造ラインを増設したばかりのメーカーは、国内需要が急増し、そちらの需要に対応せざるを得なくなっている。最大手メーカーも事情は同じで、新たに海外戦略部を設置したものの、今は急増する国内需要を優先せざるを得ない状態になっている。
国内での影響は、都知事の外出自粛要請でコメに仮需が発生、一時スーパーのコメ売り場から精米が消えたが、それも一端収まり先週末にはいつも通りに精米が並んでいた。不思議なことは過去の震災等自然災害による仮需の発生時には市中で取り引きされる玄米のスポット相場が敏感に反応して値上がりしたが、今回は値上りするどころか下値に突っ込む銘柄もあるなど真逆の反応になっていること。売り物が増加しているもののうち最も目立つのが中米で、産地からの売り打診のなかには1件300トンという大口の玉も出ている。中米は外食店など業務用精米の増量原料として使われるケースが多いが、外食需要がガタ減りで、増量原料の中米が宙に浮いたような格好になっている。
宙に浮いたのは学校給食用の精米も同じで、休校が長引き、納入する予定のコメが丸々残っており、米穀小売店からは補償を求める声も上がっている。小売店の中にはスーパーでコメが買えなくなった消費者が押し寄せてきたため学校給食用の分を代替販売した小売店もおり、万事に支障が発生したというわけではない。ただし、コメパニック時もそうであったように米穀小売店には新たな課題が突き付けられた。
それはコメの流通ルートが複線化、米穀小売店の中には産地のJAや生産者法人と直接契約しているところも多く、その割合は米卸から仕入れる量と肩を並べるほどになっている。大手卸の場合、量販店や外食チェーン店に納入する量が多く、米穀小売店向けに卸す量は限られた数量になっているというのが実態。こうした流通構造の変化で、今回のように仮需が発生しコメが足らなくなっても卸を頼ることが出来ない。ではどうするのか? 小売店の間では新しく共同仕入れの組織を作るべきという事が話し合われている。小売店が組織した共同仕入れ組織はこれまでにもあったが、今話し合われているのは、これまであったような共同仕入れ組織ではなく、もっと規模が大きいもので、そうしないと今回のような非常事態には対応できないことがハッキリしたからである。
コメの取引、流通の在り方を変えなくければいけないのは小売店だけではない。日本コメ市場は前回の取引会で会場に集まらなくても良いように会員社に売りメニューを記載したものをFAXで送って取り引きするという手法に切り替えたが、一斉同報しても会員社に届かないというケースもあった。こうしたひと時代前の取引手法ではスムーズな取り引きを完結するには時間がかかり過ぎる。原料米を取り引きしている全米工も同じで、前回は東京で開催したが、さすがに今回は大都市圏での開催が難しく、開催場所を変更せざるを得なくなった。
会員社が一堂に会するのは情報交換会や会員相互の絆を強める上で必要なことだが、取引に際しては、会場に来られない会員社が取り引きに参加出来るように出品されたサンプルを画像解析してデータを送り、それを取り引きできるようにすれば良い。そのサンプルは原材料米ばかりでなく、産地銘柄の検査米でも構わない。売り人は会員社に限定することを止め産地のJA、集荷業者、大規模稲作生産者などが全国どこからでも自社のコメを画像解析したものを取引主催者のパソコンに送れば取り引きできるというように規約を変更すれば良い。
これによりコメの流通・取引は革命的に変わることになるだろう。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
重要な記事
最新の記事
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(2)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【全中・経営ビジョンセミナー】伝統産業「熊野筆」と広島県信用組合に学ぶ 協同組織と地域金融機関の連携2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
「いざ土づくり!美味しい富山を届けよう!」秋の土づくり運動を推進 富山県JAグループ2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日