野菜生産と林業、稲作【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第125回2020年11月19日
私の生家のある旧山形市(昭和の大合併以前)は盆地の真ん中にある平坦地で林野がなく、木を材料とする生産・生活資材の自給はできなかった。たとえば、キュウリやトマト、サヤエンドウ、ササゲ等々の蔓をからませたり、まっすぐに伸びるように支えたりする支柱(生家の周辺ではそれを「て」と言っていた)にする柴や細竹が必要となるが、それは近在の山村から購入するより他なかった。野菜が主作物の私の生家では5~6キロ離れた山麓の農家にそれを頼んでおり、春になると牛車を牽いて行き、2~3メートルの高さに伐ってもらっている柴を荷台に一山積んできたものだった。この「て」は何年間か使ってときどき更新するのだが、もう弱くなって使えなくなった「て」を捨てることはなかった。鉈で30センチくらいに切って風呂や囲炉裏の燃料の薪にして用いた。生木ではなくなっているし、太さも手頃なので、いい燃料だった。このように、「て」は生産資材であると同時に生活資材ともなったのである。まさに再利用であり、無駄がなかった。
また、農産物の輸送・出荷用の木箱も山村から購入した。私の生家ではリンゴ箱よりも少し小さい木箱を購入し、それにトマトやキュウリなどを入れて東京や仙台に出荷していた。ただし箱として完成したものを買うのではない。箱になる寸前の板を購入し、それを農家が釘を打って組み立てるのである。つまり、間伐材や製材のさいに出てくる端材からつくられたものであろう、幅は不揃いだが一定の長さに切られた二種類の板が、きちんと箱が組み立てられるような枚数だけ、ひとくくりになっている。それを組み合わせて釘を打ち、収穫してきたトマトなどを入れて、ふたをする。この箱つくりとトマトなどの箱詰め方が子どもたちの夏の夕方の手伝い仕事だった。そして翌朝、牛車に積み上げて駅に運び、貨物専用のホームに降ろすのである。
野菜出荷用としては炭俵も山村から購入した。山村では萱刈り場から刈ってきた萱で炭を容れる炭俵を編むが、私の生家や近くの農家は秋になるとその炭俵を共同で購入し、その俵に白菜を畑で詰め、駅に運び、汽車に乗せて東京などに出荷したものだった。
この炭俵や木箱、これはきっと仕入れた八百屋さんやその近所の方のお風呂の燃料として利用されたことだろう。
稲わら・籾殻、これも野菜づくりには欠かせなかった。堆肥の原材料、温床の敷料としてはもちろん、保温・保湿・雑草抑制・土壌の柔軟性保持のための被覆材料として畑に敷かれ、やがて堆肥としてすき込まれた。
このように温床はそして当時の野菜生産はよく言われる循環型農業だった。生産資材はほとんど農山村・農林業起源であり、木、紙、植物油、生ゴミ、わら、籾殻だった。したがってそこで出てくる廃棄物はすべて農業的に再利用されたのである。
もちろん限界もあった。まず、都市ゴミの温床での利用は春先だけであり、それ以外の時期は焼却されていた。また、毎年繰り返される温床づくりには労力が非常に多くかかるし、当時の循環型農業はすべて長時間の重労働を必要とし、人間労働の酷使につながったのである。しかも不潔、不衛生である。とくに人糞尿にはハエ、寄生虫、病原菌が付き物であった。さらにダラ汲みは前にも述べたように農民差別の蔑称ともなった。
したがって、こうした諸問題を解決しつつ、循環型農業をさらに発展させていくことが当時の課題であった。
しかし、温床の最盛期だった1950年代は、化学肥料、農薬の多投などが始まりつつあった年代であり、60年代から本格化するエネルギー革命の名のもとで進行した石油依存社会への転換、プラスチック等の分解困難な物質の生活廃棄物への混入等は、その課題の解決どころか循環型農業の壊滅へと導くのである。
それはまた後に述べさせていただくとするが、こうして生産した春、夏、秋の野菜は、市内の小さな市場や八百屋さん、お得意さんに個別で販売すると同時に、東京や仙台の市場に近所の農家と共同で列車で輸送して販売した。
問題はその価格だった。
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