元旦付全国紙を点検 「米中」「コロナ」に集中【記者 透視眼】2021年1月4日
新年早々のコラム「記者 透視眼」は元旦号の全国各紙1面トップの点検から始めよう。目立ったのは米中関係、特に今後の中国の動き。さらには新型コロナウイルス感染の行方だ。記者の〈透視眼〉には新たな社会の在り方が見えてくる。(敬称略)
新聞読みの肝
元旦号はその新聞がこの1年を通しどんな視点で報道を続けていくかの姿勢が見て取れる。長年、マスコミ界にいると新聞読みの〈肝〉は元旦号とその前日の大晦日、大つごもりの12月31日であるとつくづく思う。この二つの日付の新聞に、これまでの1年とこれからの1年がギュッと〈凝縮〉されているからだ。
大晦日 昔「大つごもり」、今「大すごもり」
その意味で、元旦号点検の前に少し12月31日号の話題を。珍しく光を放ち存在感を示したのは「朝日」の14面「オピニオン」のページ。この1年のさまざまな出来事が〈凝縮〉されている。社説は〈「1強」の終わり 危機に立ちすくむ強権政治〉。雑誌『暮しの手帖』花森安治の言葉から始まる。〈コロナ禍を転換の機会としたい。今ならまだ、カジは切れる〉と締めくくるが、首相ご本人がその気が全くないのだから、馬耳東風型論説の典型だろう。
出色なのは同ページのやくみつる風刺漫画と「かたえくぼ」。漫画は安倍前首相が除夜の鐘を撞く。〈国会での虚偽の数だけ撞いてます〉の説明付き。人間の煩悩は108だが、この方は118とかなり多いらしい。次に読者投稿による「かたえくぼ」。『大晦日』昔―大つごもり 今―大すごもり。なるほど、座布団一枚と言いたくなる。
今ひとつ、31日付スポーツ欄トップ。スピードスケート女子の日体大・高木美帆の全種目制覇5冠。しかも短距離の覇者・小平奈緒も破っての快挙だ。そう言えば、日本国内は東京五輪の行方で話題持ちきりだが、1年後の2月は北京で冬季五輪もある。高木の強さは〈しなやかさ〉。記事を読みながら、農業も攻めや強さばかりでなく、この柔軟性をも伴う〈しなやかさ〉こそが大切かとも思う。
新社会像はどこにある
本題の元旦号全国紙1面トップに移ろう。
まず米中関係だ。「読売」「産経」は中国の怪しい動きに焦点を当てる。「産経」は〈自由 強権 21世紀の分岐点〉を企画。前日の31日付でジャック・アタリらが登場した〈日米欧 知は語る〉も内容はあった。コロナ禍を強権で抑え込んだかに見える中国の新たな攻勢が始まりかねない。新社会像を探る1年となるのは間違いない。
その点で「日経」は〈脱炭素の主役 世界競う〉と気候変動も踏まえたグリーン社会へ日米欧中環境マネー8500兆円の行方を追う。菅政権の目玉でもあり、今後の産業界の中心ともなるテーマだ。
独自ネタを探る
通常、元旦号は各紙ともまず特ダネ、独自ネタも掲載しようと試みる。辣腕記者が少なくなったせいか、その動きも最近はめっきり弱まった。
政権への抵抗姿勢を強める「朝日」は〈吉川氏に現金 さらに1300万円〉。元農相の現金疑惑の追跡記事だ。大手鶏卵業者の元代表の秘書が詳細なスケジュール手帳とカネの流れを示すメモを持っていた。いわば〈裏手帳〉と〈裏帳簿〉である。朝日の元旦記事は、18日に始まる通常国会冒頭から〈カネと政治〉疑惑を争点にする政局記事の一環だろう。正月3日付でも西川公也元農相の同様の疑惑を続報。「毎日」は〈中国「闇」ワクチン流入〉。日本の富裕層が中国からのワクチン接種を始めているというショッキングな話題だが、背景には特別取材チームの存在がある。コロナ記事の焦点がワクチンに移ることも示唆する記事だ。
農業はやはり米過剰問題
農業問題はどうなるのか。「朝日」は国連の持続可能目標SDGsに絡めた〈食の向こうに〉を載せた。世界の人口問題と気候変動を併せ考え、持続可能性と食と農は今後の大きな課題となる。専門紙の「日農」は〈21年産米最大の転作へ 正念場手を携え〉と需給均衡に向けた新潟の取り組みの〈今〉を追った。
米需給問題は今年の出来秋に一挙に吹き出す可能性が強い。誰もが予測していいながら、事態を止まられず対応できない。これを、予見を越えた危機の〈ブラック・スワン〉に対し〈ホワイト・スワン〉と呼ぶ。もう種もみの手配は終わった。年明けの集落座談会は水田で何を作るか話し合い。主食用米からの用途変更しか手がないかもしれない。米過剰問題は今年の農政の最大課題となる。
大震災10年の節目
全国各紙とも特集で2011年3月11日の東日本大震災から1年を追った。あの大惨事を振り返ることは災害列島・ニッポンの在り方、原発事故を伴う次代のエネルギー政策の行方とも密接に絡み合う。2月からは〈大震災10年〉の重点記事が一気に増えてくるはずだ。注目したい。
「嵐」去り空には虹が
元旦のスポーツ各紙は「報知」「スポニチ」「日刊スポ」とも男性人気グループ「嵐」引退の特別紙面に。「嵐」と聞いて「?」となれば相当、情報アンテナがさび付いていると言っていい。嵐が去り、今年はコロナも去り空に〈虹〉が見えるようにと願う。ちなみに政治記者はスポーツ紙を読むことも大切だ。スポーツ紙の政治記事はわかりやすい上、ここで取り上げられるネタは一般大衆の関心事とも重なるからだ。
(K)
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