飼料米作付け増では間に合わぬ~政府米による困窮者支援と農家収入補填が先【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2021年9月30日
米価が1万円/60kgを下回る危険性について再三指摘してきたが、ついに、多くの銘柄が危険水域に入ってしまっている。これではコメ農家はもたない。来年の飼料用米の作付けを増やすだけでは間に合わない。政府買い上げ米による困窮者救済で主食用米の需要創出を行い、かつ、農家には赤字補填が必要である。米国は困窮者のための食料買い上げに3,300億円、農家の収入補填に3.3兆円支出した。無策の日本との差はあまりにも大きい。
次表の通り、多くの銘柄の取引価格が9,000円台に突入、生産者手取りは7,000円台の銘柄も出てきている。これでは、大規模専業経営がまず経営危機に陥る。かねてから指摘しているように、コロナ禍で食べたくても食べられなくなって縮小した需要は20万トン前後に上る。備蓄用米を買い増して困窮者にコメを届けることをなぜしないのか。米国は困窮者への食料供給に3,300億円分を買い上げて届けた。
制度上の制約があると言うが、緊急時に柔軟に機動的に制度運用せずして、何のための制度だろうか。本来、国民を救うためにあるはずの法や制度が、法や制度に縛られて国民を救うどころか、苦しめることが日本では多すぎる。こんな愚かな本末転倒な話はない。消費者と生産者の苦しみを放置することは許されない。
そして、日本には、十分な収入補填の仕組みがない。今のように、コメ生産費が15,000円、米価が9,000円なら、米国ならば、その差額の6,000円が農家に支給される。そのような仕組みは日本にはない。かりに、収入保険に入っていても、過去5年の平均収入より下がった分の81%が補填されるだけである。
表2を見てわかるように、すでに米価は生産費を下回って、かつ、趨勢(すうせい)的に下落している。このような中で、過去5年の平均米価を基準にしたら、そもそもコスト割れであるし、基準そのものも「底なし」に下がっていくから、「底なし」で低下する基準との差額の81%を補填してもらっても、セーフティネットになり得ない。生産コストと市場価格との差額の100%を補填する米国との差はあまりに大きい。政策体系の抜本的な見直しが必要である。
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