テレポリティクスでイシンゼンシン【小松泰信・地方の眼力】2021年11月24日
「テレポリティクスという言葉がある。メディアの中でも特にテレビを巧みに活用する政治手法のことである」ではじまるのは「倉重篤郎のニュース最前線」『サンデー毎日』(12月5日号)

国民栄誉賞は辞退すべし
エンゼルスの大谷翔平選手は、日本政府から国民栄誉賞授与を打診されたが、「まだ早いので今回は辞退させていただきたい」と返答したそうだ。
野球界では1983年に当時世界新記録の通算939盗塁を達成した福本豊氏、元マリナーズのイチロー氏に続く3人目の同賞辞退。なお、イチロー氏はこれまでに3度、国民栄誉賞の授与を断っている。
「そんなんもろうたら、立ち小便もできへんようになる」と辞退し、大きな話題となったのが福本氏。
氏は、スポーツ報知(11月23日6時配信)で、「真意はそうじゃない。国民の模範となれるか? そう考えると、自分の行動に自信が持てなかった。酒は飲むし、当時はたばこも吸うし、マージャンもしていた。とてもじゃないが、品行方正と呼べる人間じゃなかった。だから、辞退させてもらった。そんなたとえ話のひとつとして『酔っぱらったら立ちションベンもする』と言ったのが"福本伝説"みたいになってしまっているけどね」と、その真相を語っている。
ことの真相はおいといて、福本氏の立ちション話はいいですね。
大谷選手と岸田首相とのツーショットは、テレポリティクスの格好の材料。そんな賞のどこに価値があるのか。
「国民」の名を勝手に使い、選手の功績を政治的に利用しようと目論む連中にこそ、ションベンや。
進むニュース内容の砂漠化
西日本新聞で連載中の「米地方紙の再生」(11月23日付)によれば、米国では、「読者の『紙離れ』が進み、小規模な新聞を中心に全体の4分の1に当たる2100余りの新聞が廃刊に追い込まれた。新聞が不在となった地域は、住民に重要な情報が届かず、権力への監視機能が働きにくくなる。『ニュース砂漠』は民主主義の弱体化につながるとして、米国で深刻な社会問題となっている」そうだ。
残念ながら、わが国では「ニュース砂漠」化は防げているものの、「ニュース内容砂漠」化が進んでいる。
冒頭で紹介した「サンデー毎日」で倉重篤郎氏(毎日新聞客員編集委員)は、「テレビジャーナリズムの現状に対する最も手厳しい内在的批判者」と評価する、ジャーナリストの金平茂紀(かねひら・しげのり)氏にインタビューを行った。
金平氏は、自民党総裁選に関して「メディアジャックだ」と斬った後、「公職選挙法による規制がないのをいいことに、同党だけの主張や政策の宣伝を延々と報道する。まるで衆院選(比例代表部分)の事前運動に協力したようなものだ。(中略)ある意味自民党が日本なんだ、という刷り込みだった」と総括する。
衆院選報道については、「今度は公選法に縛られ放題の報道だ。選挙期間に入った途端に報道しない。(中略)面倒くさい、やりたくないや、と。世界にこんな国ないですよ。それで有権者に対してちゃんと選べよ、選挙に行きましょう、と言っても無理だ。(中略)枠組み自体がおかしいじゃないかという想像力が今のメディアの中にない」と指弾する。
「日本維新の会」(以下、維新)台頭の背景を問われて、「その一つはテレビだ。橋下徹(元大阪市長)も吉村洋文(大阪府知事)もテレビの露出度がすごい。(中略)政務とは別にどこの番組のどのワイドショーに何分出るか決めている。極論するとテレビが生んだ右翼ポピュリスト政党だ。露出が権力を生む。(中略)テレビがなければ彼らはいない。一種のメディア・スター政治だ」と分析する。
その維新が自民党と連携して、国政で存在感を高め、農政においても悪しき影響を及ぼしてくる、と心しておかねばならない。
前回の衆院選における比例代表での維新の得票率を見ると、10%超えは近畿の2府4県のみであった。それが今回、近畿以外で10%を超えたのは、宮城、栃木、埼玉、東京、千葉、神奈川、富山、石川、岐阜、愛知、広島、徳島、福岡となっている。さらに、沖縄以外の都道府県では、前回と比べて得票率を上げている。
「一ローカル政党」と上から目線で軽く見ていると、来年の参院選で痛い目にあう政党や候補者が続出すること間違いない。
新自由主義そのものの維新の政策
「政策提言 維新八策2021」に示されている、産業別成長戦略の特徴を端的に表しているのが次の2項目。
「すべての産業分野において、競争政策 3 点セットとして(1)供給者から消費者優先(2)新規参入規制の撤廃・規制緩和(3)敗者の破綻処理が行われ再チャレンジが可能な社会づくりを実現します」
「特に規制改革については『事前規制から事後チェック』への移行を目指し、(中略)イノベーションを促進します。根強く行政に残る過剰な規制については、(中略)段階的に削除していくことを目指します」
竹中平蔵氏が泣いて喜ぶ、競争政策、規制改革路線で、農業政策も農協対応も行われることを次の項目が示している。
「減反政策の廃止を徹底し、コメ輸出を強力に推進します。また、戸別所得補償制度の適用対象を主業農家に限定します」
「農協法の更なる改正により、地域農協から金融部門を分離し、また地域別に株式会社化することで、『農協から農家のための農業政策』へ転換を図ります」
「農協の地域独占体制を改善するために、農協に対する独占禁止法の適用除外規定を廃止し、複数の地域農協の設立を促進するなど、競争環境を整備します」
「農地法改正により、株式会社の土地保有を全面的に認め、新規参入を促進します。同時にゾーニングと転用規制を厳格化し、農地の減少を食い止めます」
「(前略)農水行政のあり方は抜本的に見直し、農水省は解体的な改編も視野に組織改革を行います」
この落とし前を付けるのはあんたたちだ
選挙前は軽く読み流していた。選挙結果を受けて読み返すと、これまでの規制改革論者より先鋭化していることに背筋が凍る思いをした。JAグループはこのような連中を相手に、不毛な防衛戦を強いられることになる。
しかしよくよく考えれば、今回もまた自民党勝利をめざして支え続けたJAグループにとっては、自ら選択した「自業自得」の道。政権と維新の農業・JAに対する政治姿勢を拒否するのなら、農政連はきっちり落とし前をお付けください。
「地方の眼力」なめんなよ
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