【書評】農業の活性化をめざす 西南団地からの提言(高武孝充 村田武著)2022年1月26日
発行:筑波書房
定価:1500円+税
本書は「はじめに」のほか「序章 新型コロナウイルス禍と米・食料問題」、「第1章 WTO体制と平成農政」、「第2章 アベノミクス農政のどこが問題か」、「第3章 水田農業の活性化を支える農政」、「第4章 水田農業の活性化をめざす西南団地」の5章で構成されている。
本書はまず「はじめに」と「序章」で、安倍・菅政権の規制改革推進会議の新自由主義的政策により国民の食料自給率への危機感が強まるとともに、新型コロナ禍により米消費の減退と米価下落が促進されているので、水田農業の活性化が国政上の重要課題になっていることを指摘している。そのうえで第1章以降は平成の農政を辿りながら、水田農業の実態と活性化の方向について検討しているが、とくに第1章で示されている「平成農政の変遷」の一覧表は、最近の農政動向を知る上で極めて貴重な資料といえる。
紙幅の関係で本書の詳細について述べる余裕はないが、アベノミクス農政の特徴として「農協をはじめとする農業団体の解体(再編)」、「農業への市場原理の導入強化」、「農業を成長産業としたごまかし」などを指摘。米生産調整の事実上の廃止は食糧法違反で国内産米価を不安定にしていることを掲げ、水田農業の維持と発展を図るためには飼料用米・WCS稲をはじめトウモロコシ、麦、大豆などの生産を増大させ、水田利用率を引き上げることを強調している。この水稲だけでなく多様な作物の栽培による水田農業全体の活性化は、当面の米需給対策を考えるうえでも極めて重要なことである。なお、本書で指摘されている網目(ふるい目)1.7ミリが実態から遊離している問題は公にはあまり提起されていないことであるが、農政当局としても検討すべき課題といえよう。
このあと第4章では福岡県JA糸島の稲作経営研究会、福岡県JA柳川の集落営農と組合員活動、JA全農福岡経済連、愛媛県JAひがしうわ、福岡県JA筑前あさくらの実践例が述べられている。そこではGPSによるほ場管理、西日本豪雨災害からの復興活動、JAの財産は「農地と組合員」であるとの理念から、行政と一体となった地域振興への取り組みなどが具体的に紹介されている。ここで述べられている取り組み内容は他の地域でも大いに参考にすべきことである。
周知のように2022年度農林水産関係予算は前年対比で削減されているが、これは自民党政権が依然として農業を国の基幹産業として位置づけていないことを意味する。この現状を改革するうえでも最近の農業政策の基本を批判的に検討し、その上で地域の実態に即して改革の道筋を示している本書は多くの読者を得ることを心より期待するものである。
(北出俊昭 元明治大学教授)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日