【浅野純次・読書の楽しみ】第72回2022年3月18日
◎石原大史『原発事故 最悪のシナリオ』(NHK出版、1870円)
福島原発事故はあと一歩で東日本潰滅に至るところでした。しかし関係者の努力により最悪の危機を乗り越えることができたのは運もあったのでしょう。
官邸には当時「最悪のシナリオ」が描き切れていませんでした。だから米国はやきもきし、「日本は責任を放棄している」と強い介入さえしてきたのです。自衛隊の出方しだいでは米軍「占領下」に置かれたと本書は指摘します。独立国家が風前の灯火だったわけです。
昨年3月のテレビ番組を基礎として再構成された本書は、政権幹部、東電本社、自衛隊、米軍関係者、暴走寸前の第一原発所員たちへの率直なインタビューを通じて、「最悪のシナリオ」作成のための問題提起は誰がどう行ったのか、なぜこれほど難航したのか、を執拗に追求していきます。
そこでは膨大な住民避難が引き起こすパニックへの憂慮と移動手段確保の難しさ、原発が暴走したとき誰が命をかけて対応するのか、などの大きな問題がありました。民主党政権でなくとも(たぶん安倍政権でも)混乱の極みだったでしょう。
当時の北澤俊美防衛相、寺田学首相補佐官たちの証言は貴重で傾聴すべきものがあります。福島原発事故は過去の話などという人にはとくに読んでもらいたい。そんな力作です。
◎加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書、990円)
日本経済の低迷ぶりは目に余るものがあります。なぜ30年もゼロ成長が続いているのか、それに対する危機感がなぜ強まらないのか。
著者は産業界の傲慢さと後れた前近代性、行きすぎた自己責任論(政治家の「自助・共助・公助」だけでなく、国民も貧乏やコロナ感染は本人が悪いからと考える比率が世界的に高いそうです)、そして寛容さを失った社会、まだいろいろと原因を挙げていきます。
その上で経済的な分析に移り、とくに経済の推力が競争力を失った輸出から今は国内消費に移っているというのに、リーダーたちはどうしたら消費が拡大できるかわからないでいると喝破します。
たしかにそのとおりでしょう。内需を拡大することは国民が豊かになることを意味しています。でも将来に希望が持てる国でなければ消費は増えません。
そのために政治がすべき課題は財政拡大以上にたくさんあります。書名で想像したよりもごく真っ当な日本経済再生の書として、示唆するところ大、と申し上げておきます。
◎池谷裕二『寝る脳は風邪をひかない』(扶桑社、1760円)
脳生理学の専門家によるエッセー集。書名の話では、ワクチンを接種した24人の治験では、接種から数日以内に一晩でも徹夜すると、抗体の量が70%も減ってしまうことがわかったそうです。
抗ウイルスにはしっかりと睡眠をとることが免疫力の働きを左右する、ということをなぜ厚労省は広く国民にアピールしないのでしょうか(とは著者は言っていませんが、評者としては大いに疑問なので一筆しました)。
それはともかく、世界の科学者たちの論文や実験を題材に、脳を中心とした多彩な話題が繰り広げられます。「記憶力は年齢とともに低下する」は全く正しくない、「直感的に決断すると、好みが一定し利他的になる」とか、さらには「ネズミに苦労して餌を得るレバーと苦労しないで得るレバーを用意すると、しだいに前者のレバーのみ押すようになる」、人間はどうかと著者は言います。なるほどという話、首をひねりたくなる話、いろいろです。
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