常任理事国入りで世界に貢献を 伊藤澄一 JCA客員研究員【リレー談話室】2022年4月1日
ウクライナ情勢から目が離せない。第二次世界大戦後のどの紛争や戦争とも異なり、深刻な事態となっている。ロシアはウクライナを数日で降伏させる目論見が破綻して、局面打開のため生物・化学兵器や核の先制使用を排除していない。核については、これまでの抑止論と異なるフェーズとなった。識者も「核は基本的には使わない、人道的にも使えない核のタブーがあったが、この戦争で核使用の敷居が低くなった」と指摘する。世界は腫れ物に触るような思いでプーチン大統領を凝視している。
核と温暖化問題
昨年11月にイギリスのグラスゴーで気候温暖化を阻止する国連会合(COP26)が開かれた。8月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、30年余を要した科学のエビデンスにもとづいて「人間の温暖化責任100%」を断定していた。主催国イギリスの奮闘で、2016年に発効した「パリ協定」に沿った枠組みを何とか維持して閉幕した。しかし、CO2排出大国の中国とロシアの首脳はグラスゴーに姿を見せず、インドなどのブレーキ発言もあって低調に終った。
このとき、ロシアはウクライナ侵攻を着々と準備していた。COPでの欧米・日本と中ロ・インドなどの利害対立の構図は、そのままウクライナ戦争にもちこまれた。615万人の犠牲者を出して収束しないコロナ禍。「パリ協定」による「2030年温暖化1.5℃抑制」の実行や「2050年カーボンニュートラル」に向けて世界はどう連携していくことになるのか。
気候変動に対する国連のIPCCとCOPの30年余は、ソ連の崩壊とロシアの誕生による冷戦後の秩序づくりの歩みと重なる。EUがけん引役となり逃げるアメリカ・中国・ロシア・インド・ブラジルなどを連帯の輪にとどめてきた。ようやく温暖化対応で連帯目標ができたときにパンデミックに襲われ、人道に反した秩序なき戦争に突入してしまった。しかも、核の使用も取りざたされている。
各国の政治や指導者の役割は大きい。気候変動対応に背を向けたトランプやプーチンと堂々と渡り合ったメルケルは政治の場にはいない。その克服のための人類の連帯は、道半ばで中断してしまうのか。世界規模での分断と対立は、地球と人間の破局への一歩になってしまうのか。国連は平和を希求する世界秩序の維持装置だが、安保理の常任理事国が仕掛けた戦争の前ではその機能を失ってしまうのか。
日本の役割
日本は地政学的にアメリカと中国の緩衝地帯にある。ロシアと北朝鮮は海を隔てた隣国である。ウクライナに似ている。ゼレンスキー大統領は3月23日の日本向け演説で、チェルノブイリの原発事故や南部などでのロシア軍の原発攻撃を挙げ、「核の悲劇を日本の人々は想像できるはずだ」と示唆した。平和憲法を持ち、核では丸裸の日本に世界平和への貢献を期待する言葉であった。
さらには、国連安保理の常任理事国(アメリカ・イギリス・フランスそしてロシア・中国)の、一国の暴挙に対する制裁不足に言及することで、「国連の危機」を強調した。今、日本では非核三原則(核を持たない、作らない、持ち込ませない)の「持ち込ませない」を見直す核共有論がでている。核を持てば核攻撃を受ける理由になる。そのような議論はする必要があるのだろうか。
日本は広島、長崎で核の悲劇を経験し福島では原発の災禍を招いた唯一の国である。「核」は人間の理性とリスクコントロールで成り立つ危険な技術である。原発が戦争の攻撃目標にもなることもわかった。だから、ドイツとともに原発抑制論で世界をリードすべきである。
広島出身の岸田首相には、長い外相経験をもとに核の脅威を世界に訴えてほしい。日本だけがもつ発言権である。首相自身も国会でそのことを表明しており、大戦に敗れたドイツとともに国連安保理の常任理事国入りを果たして、国連改革と世界の平和に貢献する道を選択してほしい。
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